短編小説からひとつ。

主人公の少年には口のきけない姉がいる。
姉弟は他に身よりもなく、姉が街で草花を売って日々暮らしている。
そして姉は弟が大人になるのをいやがって、主人公の生えかけの脛毛(すねげ)を見ては何度も首を縦に振る。
彼女は手振りで話すことができたが、どういうわけか否定の気持ちを表すときの仕草を間違えて覚えていて、首を横に振る代わりに縦に振るのである。

やがて主人公は恋をして、半病人のような姉を疎ましく思うようになる。
同時にみすぼらしい花を売ったくらいで二人の食い扶持が稼げるはずもないことがうすうすわかってくる。
姉は語ろうとしないのでこっそり後を追うと、案の定姉は春を売っていた。
主人公はベッドの下に隠れて、姉を買った男を刺す。

そして気を失った姉と殺された男を放置して、彼は清清しい顔で帰宅する。
きっと今頃かわいそうな姉は、「お前がやったのだな」という質問に対し、 狂ったように首を縦に振っているのだろうと思いながら。