霊感があると言う知人の話。
彼女曰く、霊感と言うは遺伝的なものらしい。

彼女の母方の家系では稀に霊感を持つ女が生まれるのだと言う。
彼女が子供の頃のこと、母方の祖父の初盆で本家に帰省した時のことだそうだ。

居間の座敷の片隅に一人の女性が座っていたと言う。
親戚の伯母さんかと思ったがこれまで見かけたことが無かった。
彼女の両親も、親戚の人も、従姉妹も、その女性とは話をしないのでおかしいなと思いつつも彼女はその女性が気になりチラチラと見ていたそうだ。

そんな彼女に気付いた祖母が彼女を自室に呼び話をしてくれた。

母や叔母、そして従姉妹達には見えないようだが、祖母にもその女性が見えるということ。
その女性はもはや生きてはいない人であること。
これからの人生、他の人には見えないが彼女だけには見えるモノが現れるがそのようなモノ達は決して彼女に害を与えることは無いので心配はいらない。
見えぬ振りをしていたらいつの間にかいなくなってしまうということ。

そして決して話しかけてはならないということ。
そんな見える者だけが知っておけば良いことを話してもらったと言う。

夕食を終え、男達がほろ酔いで従姉妹達と花火を、女たちは台所で夕食の後片付け、居間に彼女とその女性だけとなった時、女性は人を探すかのようにキョロキョロとしていたので彼女は思わず「おばあちゃんを探しているの?」と声をかけてしまった。

女性は彼女に向きなおると微笑みながら無言でわずかに頷いた。

「おばあちゃんは台所よ。洗い物をしているの」

女性は腰を浮かし台所のほうをちらりと見ると、再び彼女に向き直り洋服のポケットからお菓子のようなものを取り出し「これをあげましょう」と言う仕草をした。

彼女はその時、まったく怖くは無かったと言う。
と言うのも、母より少し年上だろうか女性は綺麗な人でとても優しそうだったと言う・・・。

女性からお菓子を貰ったところまでは覚えていたが、その次に彼女が気付いた時には親戚一同が不安そうに彼女を見ていたと言う。

詳しく事情を聞くと、祖母が井戸に何か大きなものが落ちた音を聞いたので不振に思い覗いてみると彼女の足が水面から突き出されていたのが見えたと言う。

慌てて皆を呼び男達が彼女を井戸から引き上げ水を吐かせたところだったそうだ。
言われるように彼女は全身がずぶ濡れになっていたそうだ。

そして、彼女が大人になり世の中の好いことと、悪いこと、そして人を許せる余裕をホンの少し持てるようになった頃に祖母がやっとあの時の事情を説明してくれたそうだ。

あの女性は祖母の息子、つまり母の兄の浮気相手であったらしい。
伯父に捨てられた女性は自殺してしまったそうだ。

祖母に見えた時には女性からは悪い意識は感じなかったと言う。
だから、祖母は無視をしていたし彼女にも警告は与えなかったと言う。

祖母「あの人はただ、あたしの息子に会ったら、静かに消えるつもりだったんだと思うんだよ。それが息子は妻子と楽しそうにしていた、悲しかったんだろうね・・・」

祖母「出来心でその場に一人でいたお前を井戸に突き落としたんだね・・・関係ないお前は、とばっちりを受けて面白くは無かっただろうが許してやっておくれ・・・本当なら、うちの息子もあたしもあの人に呪い殺されても文句は言えない立場なんだよ・・・」

そういうと彼女の祖母は頭を下げたと言う。