オカ板の住民なら「零」というゲームを知っているよね?

幽霊を写せる特殊なカメラを使って悪霊と戦う謎解きゲームみたいなやつ。
それがひとつの発端ともいえる話を、嫁がしてくれた。

オカルトマニアの嫁が大学時代のこと。
嫁と同じサークルに入っていた男で、少し変わった奴がいた。
周りの人間を見下すような態度が多く、場の空気を読まない毒舌家でもあったため、嫁やサークルメンバーからは敬遠されていたそうだ。

そいつは嫁に気があったようで、しばしば彼女にちょっかいを出してきたらしい。
その日も嫁の気を引くため、次のような幽霊話を振ってきた。

・昔の人が言ったように、カメラには魂=エネルギーを吸い取る効果がある(彼によれば、写真はエネルギーをもぎ取って紙に焼き付けた物らしい)

・肉体があれば失ったエネルギーは回復できるが、純粋なエネルギー体である幽霊には相当なダメージとなる。

・よってカメラを使って除霊する「零」のシステムは非常に合理的。

箸にも棒にもかからぬ話と一笑に伏した嫁の態度にカチンと来たか、男は「じゃあお前のために心霊写真撮ってきてやるよ!」とどこかへ行ってしまった。
だが彼の大言壮語はいつものことなので、誰も期待していなかったそうだ。

数日後、男はおかしな写真を持ってサークルに顔を出した。
俯き加減で暗い表情の若い女がカメラを睨んでいる。
フラッシュはたいていたようだが、背景は黒くてほとんど何も見えない。
率直に言って、「零」で撮る幽霊写真のパクリとしか思えない代物だった。
・・・つまりどうみても偽物。

男は興奮気味に幽霊を取る際の武勇伝を語るが、彼が行った廃墟は、心霊スポットでも何でもないただの空き家。
結局誰も写真を称賛せず、彼は法学部の奴に説教されただけだった。
それが不満だったか、彼は写真を焼き増しして色々な出版社やTV局に送ったが、どれも送り返されてきて、以後は梨のつぶて。

大量の焼き増しの処分に困ったのか、男はメンバーに写真を押し付け始めた。
大抵の者はゴミ箱に直行させたが、嫁は「偽物としても上手に作ったな」と、冗談半分に保存しておいた。

数カ月が過ぎ、皆が写真など忘れたころ、自宅の火事で男が亡くなった。
火元は彼の部屋だったそうだ。
たとえ普段はウザいと思っていても、知っている人間が死んだというのは相当なショックらしく、サークルメンバーはお互いを慰めながら、彼の思い出話などをしていた。

その流れで嫁が例の写真を取り出したところ、真っ黒だったはずの背景に赤い光がさしていて、その光の中に、真っ黒な物がいくつもいくつも折り重なっている。
その形はどうみても人間であり、見ようによっては炎の中の黒焦げの人間。

女は相変わらずそこに立っているが、光のせいでその女が透けていることが分かった。
嫁はパニックしたのか、翌日その写真を廃墟に投げ捨ててしまった。
さらに数ヵ月後、その空き家は不審火で焼け落ちた。

出版社ってのは、送ったものを律義に送り返すものなのか?
写真は本物の心霊写真だったのか?
火事と写真にどれだけの因果関係があるのか?
・・・嫁はそんなことを言って首をかしげていた。

そして、最近霊感の強い友人にこのことを話したところ、こんな返答があったらしい。

霊感の強い友人「その女はなんの力もなく、ただそこに『居た』だけだったのに。写真がエネルギーを紙に焼き付けるとまで分かっていたなら、なぜそれを焼き増ししようなんて思ったのか。何も手を出さなければ、その女は永遠に無力でそこに『居る』だけの存在だっただろうに」

蛇足だけど、廃墟の火事の少し後、サークルの人がその家のことを調べたそうだ。
もともとその空き家に住んでいたのは年配の夫婦で、独立して家を出た娘さんを火事で亡くした後、引っ越していったのだそうだ。