私がこの話を聞いたのは5年ほど前。
今は更地になっているが、実家の隣にあった家に幽霊が出ていた。
20年ほど前に、隣の空き家を工事現場の事務所兼宿舎として貸し出していた時に出ていたそうだ。

目撃者はその宿舎に長期の間泊まっていた職人のおっちゃん達。
我が家は定食屋を営んでいたので、そのおっちゃん達はよく来てくれたし、小学生の私をかわいがってくれた。

幽霊はかなり頻繁に出ていたようだ。
なんでも、2階で寝ていると全員就寝したのを確認しているのに、姿のない何者かが1階から階段をゆっくりと登ってきて扉を開け、寝ている皆の枕元を歩きまわるそうだ。
古い家特有のミシミシという音も相まって、それはそれは不気味だったと聞いた。

腕力も体力もあって人間相手なら怖いものなしのおっちゃん達も、人間以外の睡眠妨害が連日続くとさすがに寝不足でヘロヘロ。工事現場の作業も、危なくて仕方がない。
そこまでくると上が不審に思って、おっちゃん達に事情を聞き、家の持ち主にまで話がいった。

家の持ち主のAさんはその話を聞いてとても驚いた。
なんでかといえば、もともとAさんがその家に長い間住んでいたのだが、その時はそんな音や気配など1度もなかったからだ。確かに、我が家もAさんの家ととても親しくしてもらっていたが話好きの奥さんからそんな話を聞いたことはなかった。

驚いたAさんがお寺のお坊様に来てもらったところ、家に入った瞬間にお坊様はこう言った。

お坊様「ははぁ、あんた、引っ越す時にお仏壇の魂抜きせんかったやろ?ご先祖様が帰る場所がわからんで迷っとられるわ」

Aさんは、高齢で足が覚束なくなったお婆さんの為に、別の土地にバリアフリーの家を建ててそちらに家族全員で引っ越している。
どうやら引っ越しの時など、お仏壇を移動したり新しくするときにはご先祖様達をそこから抜く儀式のようなものがあるらしいが、それを知らなかったそうだ。
引っ越しが終わった後などは、逆に抜いたご先祖様達をお仏壇に戻す魂込めというのをしなくてはいけないとも聞いた。

その場でお坊様がご先祖様達を抜いて引っ越し先のお仏壇に戻されたそうで、本当にその夜から足音がピタリと止んだ。無事におっちゃん達の現場も進み、最初にも書いたが今その土地は更地になっている。

今ふと思ったが、Aさんは引っ越してから騒動が起こるまでの1年ほどの間、誰もおられないお仏壇を拝んでいたことになる。
ご先祖様はいきなり帰る場所が無くなって驚いただろうなぁ・・・。