今は亡き父が子供の頃に体験した話です。

私の父は、生前、事あるごとにこの話をよくしていましたので、よほど印象深い出来事だったのだと思います。

父がまだ小学校低学年だった頃、家の周りはまだ畑や田んぼ、小高い丘ばかりであったらしいです。
そんな頃、学校が休みであったため、家の近所をブラブラしていたら父の父(祖父)が釣り道具を持って歩いてきて、父を見て「おい、暇なら一緒に釣りに行くか?」と言ったそうです。
当然、暇だった父は喜んで一緒に釣りに同行することにしました。

少し小高い山を越えたところに渓流があり、そこで結構な数の魚を釣り、そろそろお腹もすいてきたので家に帰ることになりました。
帰り支度をして、来た道を引き返すため山を下っていると、そこは小道の両側が竹薮だったと言ってましたが、そこに、紫の着物を着た、この世の者とは思えないくらい綺麗な女の人が眉間にシワを寄せ苦しそうな顔をし、しゃがみこんでいたそうです。

祖父が、その女の人に「どうしました?」と、声をかけたところ「お腹が痛くて痛くて動けなくて・・・もし山を降りて行くのならば、失礼ですが私をおぶって麓まで連れて行って頂きたいのですが・・・」と、言われて祖父は快く承諾し、その女の人を背中におぶり山を降りていたのです。

祖父の5~6mくらい先を父が後ろの祖父を気にしながら歩いていたそうですが、麓が近くなるにつれ、父の後ろを歩いているはずの祖父の様子が何かおかしいことに気が付きました。
少し立ち止まっ祖父を見ると祖父は真っ赤な顔から脂汗を流し、目を見開いて歯をくいしばり、足を小刻みに震わせながら歩いてくるので、父は、「とーちゃん、どーしたの?」と、聞くと「う~ん、後ろの人が重くて重くて・・・」と、言ったそうです。

父は即座に祖父の後ろに回って見てみると、祖父は大きな切り株をおぶっていたそうです。
それを祖父に伝えると、祖父は切り株を放り投げ「あははは(笑)やられた!」と、言い、父がキョトンとしていると、「狐だよ。狐にやられた!」と言って、祖父が腰にぶら下げていた釣った魚が入っていた竹で編んだ魚籠を見てみたところ、底の方を何かに喰いちぎられており、当然、中は空っぽ・・・。

という戦後すぐの京都での話です。