自分は建設業だが、洒落にならん話は数点かな。

一番酷かったのは奥尻島の復興に行ったとき。
正直、二度と行きたくない。

現地入したのは日中だったんだが、まず臭いが凄かった。
澱んだ水の腐った臭いや生ゴミのような腐臭、そんなものが入り交じってむっとしていた。

そして夜。
津波で洗われたあとだから、街灯なんざ根こそぎだし民家も潰れているから、本当の意味で闇。
僅かに被害を免れたところと、発電機のあるところくらいしか明かりが無い。
そんな闇の中、自分は霊感なんざ指の先ほどしか無いような人間だが、それでも感じる『そこに何か居る』という感覚。
明るい室内の窓の外から感じる、視線にも似た圧迫感。

実際、巡回中に遭遇したこともあった。
一応、業者毎の担当区ってのがあって、夜も定時に巡回することになってた。
理由は、被災者が戻ってきて、怪我したり二次遭難しないためにね。

ある夜なんだけど、そうやって回っていたら、おばあさんが街灯の下に立ってたのよ。
当然、こちらとしては声をかける、「危ないですよ、どちらさんですか」ってね。

振り向いてこっちを見た・・・おばあさんの目は真っ暗だった。
そして気づいたんだけど、影がないし、そもそもこの区域にはまだ電気が復旧していない。
おばあさんの回りだけが、黄色がかった滲むように浮き上がっていた。

気づくと、マグライト持ったまま闇の中に立ってた。
目の前には、津波で粉砕された家があるだけだった。