夜中、トイレに行こうとして廊下を歩いていたら、個室の扉が開いていて中から声がした。

「看護婦さん呼んで~」

中を覗き込むと、ベッドで寝ているおばあさんが、付き添いで隣に座っている別のおばあさんに言っているようだった。
付き添いのあばあさんは、うなずくだけで動こうとしない。
なんで呼んでやらないのかわからない。

はじめはささやくような声だったが、だんだん大きくなった。
ナースコールを押せばいいのに、と思いながら部屋から離れようとすると、「にいちゃん助けて~」と大声で言った。

それで気づいた。

『看護婦さん呼んで』は俺に言っていたようだった。

俺が「今、呼んでくるから」って言っても、今度はそればっかり言いだした。
その声もだんだん大きくなって、廊下に響き渡るくらいになってきた。

俺は廊下をナースステーションへ向かって走り出したんだが、後ろから「ギャー!」って叫び声がした。

その声は異常に大きく、ナースステーションの近くまで来ていても十分聞こえた。
中に居た看護師に「◯◯号室の患者さんが叫んでるよ」って言ったら、看護師は疲れた表情でうなずいて、そのまま別の仕事をしている。

俺が「叫び声、聞こえないの?」って言ったら、「ごめんなさいね。後で行きます」って。
で、また俺が「でも、すごい声がしてたけど」って言ったら、ようやく立ち上がって、「だれが扉を開けたのかしら」って言いながら部屋へ向かった。

看護師は俺に「もういいから寝てください」みたいなことを言いながら、おばあさんの部屋へ向かった。
俺の部屋も同じ方向なので、いっしょに行った。
部屋に着いて、俺は気になったので中を覗こうとしたけど、付き添いのおばあさんがチラッと見えただけで、看護師が扉を閉めてしまった。

次の日の夕方、昨日の看護師が俺の体温を測りに来た。

看護師「あのおばあさん、いつも大声で叫ぶので個室にしてもらってるんです。だから扉は必ず閉めるようにしてるんです。おばあさんも、今は歩けないので扉を開けれないはずなんだけど・・・。昨日、あの部屋の扉を開けませんでしたか」

俺「いいえ。知らない人の部屋なんか開けませんよ。たぶん、付き添いの人が開けたんじゃないですか」

看護師「あの人は付き添いの人はいませんよ」

俺「ええ!昨日部屋の中に入る時にもいましたよ」

看護師「うそだ~患者さん一人でしたよ~」

看護師がなんか俺のことを気味悪そうに見たので、俺は適当に「見間違いだったかな」とか言ってごまかした。

でも本当に、あそこにもう一人おばあさんがいたんだ。