おかんから聞いた怖い話。

うちのおかんは自称霊感があると言い張るタイプの人間だ。
そんなおかんが結婚前東京で働いていた時の話。

ある日、送別会だか忘年会だか、とりあえず何かの飲み会があり遅くなったそうだ。
新宿からタクシーで帰ろうと思い待っていると、深夜2時過ぎということもありタクシーはすぐに拾えた。

行き先を告げ、少し眠ろうとしたとき、何だかカビ臭い匂いがしてきたんだそうだ。
別に古いタクシーでもなさそうで、それでも何か古い倉庫のような臭が立ち込めていた。

窓を細めに開けうつらうつらしていると、当時から付き合っていた親父と映画館に行っている夢をみた。
ホラー映画を見ていて思わず親父の手を握り締めたところ、そっと握り返してきた。
それが妙にリアルだったらしい。

ふと目を覚ますと車は走り続けていた。
しかし手は何者かに握られたまま。
もちろん客はおかん一人。
怖くてまともに横は見れない。

「どうしよう・・・」

運転手は全く気づこうとしない。
その間にも手は力を入れたり、弱めたりしてきたらしい。
ゾッとして声にならない声を漏らした。
助けを呼ぼうとして失敗したのだ。
するとすぐに運転手がバックミラー越しに鋭い視線を送ってき、次の瞬間、素早くスイッチを入れた。

「じゃん!じゃん!じゃんじゃかじゃんじゃん!じゃじゃじゃじゃじゃん!!」

大音量で軍艦マーチがかかり出した。
その音にハッとした瞬間、手は消えたという。

呆然としていると家についた。
運転手もおかんも口を利かなかった。
ただ、「千円負けとくから」。

降りる際、運転手がそう言ってウィンクしてきたらしい。
個人タクシーだったという。