俺の親父は証券会社勤めで、20年くらい前は田舎町の支店で営業をやってた。
そんときに親の遺産数百万円を将来の蓄えに株式投資したいって窓口に相談にきた人がいたんだ。

その人(以降はAさんね)はトラック運転手でまじめな人だったらしい。
親父も同年代っていうこともあって個人的に仲良くなって、手数料稼ぎもせずに儲かるように運用させてたらしい。

そこから1年くらいはかなりの幸運もあって、相当稼いだらしい。
会社も辞めて、家も車も買って、自腹きって親戚集めてマイクロバスでグルメツアーとか振舞ってたよ。
グルメツアーには小学生の俺も参加してた。
お菓子とかジュースとか買ってくれて、やさしい人だなあと思った記憶がある、顔とかは忘れたな。

ここらがAさんの最盛期だったみたいね。

それからしばらくしてから、うちの親父とは縁がきれたみたい。
親父が家でAさんの話しなくなったから、そうなんだと思う。
次にAさんの名前を聞いたのはグルメツアーのあと1年くらいたってから。

親父が喪服で帰ってきて「Aさんの葬式に行った」てお袋に話してた。
そんときに親父が「儲かりすぎたから人が変わった」って言ってたのを強烈に覚えている。

Aさんは車に排気ガス引き込んで自殺したらしい。
Aさんの奥さんはもうだいぶ前に病気でなくなってたんだけど、俺よりちょっと年下の小学3年生くらいの男の子がいたと思う。
一緒に心中したのかどうかは知らない。

転落の経緯は詳しくは分からん、断片的な親父の話をまとめると下記。

儲けがどんどん膨らむにつれて、Aさんは自分の相場観に神がかり的なものを感じていったらしい。
リスクの高い取引をやりたがるAさんと、やめさせようとする親父の間は次第に気まづくなって縁が切れたみたいだ。
親父の証券会社の口座をほぼ手終ってから、複数の証券会社で取引を始めたらしい。
その後はお決まりの転落、最後は億の単位で借金があったみたいだ。

そんとき俺は知ってる人が自殺したってのが怖くて怖くてしょうがなかった。
今になっても信用取引は怖くてできない。

ずっとマーケットに勝ち続ける個人投資家なんていないんだよね。
ラッキーで儲かっても恐怖心だけは忘れないようにしてる。