頻発に病院に行ってるので、混んだ待合室で隣の席に座ってたお爺さんに聞いた話。

待ち時間が長くなることが分かってたから、コンビニで事前に雑誌とか買っていってたのね。
そんでその日は猫漫画と実話系オカルトを読んでた。

そしたら、それに気付いたお爺さんが「そういう話興味ある?」って話しかけてきた。
田舎の大きめの病院だから、みんな割とフランクで、こっちも慣れてるので世間話になった。
若く見えるだけで米寿前後だったか結構なお歳で、昔話を色々聞かせてもらってた。
その中の一つの話。

昔、ある女性(A子とする)が記憶喪失になった。
事故としか聞いてないんで詳細は不明。
よそからきた人らしく、A子の恋人(B男とする)しか知人はいない。

B男曰く・・・。

・A子とは最近恋仲になった
・A子には病気の兄がいる
・すっごい美人だから、印象には残るだろう(どや顔)なもんで、いまいち身元が判明しない。

だから、兄を見つけられれば分かるだろうって話になったんだと。

B男の話からあちこち探したものの、A子の身元に繋がる情報が出てこない。
A子と出会った街、A子の住むという街にも痕跡が全然無かった。
あるのは店員とかが「あのべっぴんさん?」程度。
これは妙だとB男以外が思い始めた。

B男はA子を甲斐甲斐しく世話していて、記憶喪失ながら二人は幸せなカップルで、A子も良い子だったのでみんななかなか怪しいとは言えない。
でも、B男と親しい友人達は気になる話を聞いていた。

B男の言うには、A子の兄は重い病気で、急いで手術をしなければ助からない。
でも自分で用意できる金には限りがあった。
A子から「必ず返すので、金を貸して欲しい」と言われ、B男は「返済はいらない」と気前よく金を出した。

話を聞いたお爺さんは「あの男は自分の気前の良さとA子の優しさをアピールしたかったんだろうがね・・・ね?」と。

そんな感じで話は瞬く間に広がって、「A子は詐欺師に違いない」とも言われ始めた。

B男の耳にも当然入り、B男は噂に「んなわけない!!!」とブチ切れた。
しかしA子は記憶がない故に否定出来なかったそうだ。

記憶が戻ればハッキリするだろう、何か方法は無いのか。
そんな流れになった。
厄介ごとを背負い込みたく無い人達と、疑いを晴らしたいB男は積極的だった。

病院で治せるものじゃないので、アレに覚えはないか、コレに覚えはないかと色々試したがダメ。
とうとう有名な祈祷師っぽい人に相談したらしい。
祈祷師っぽいというのは、その人の天気予報がよく当たるとか、病気を治せるとか、害獣を呪殺した、ってイメージから、お爺さんはそう記憶してる。

冷静な方だったお爺さんの家族は、胡散臭い流れになったなという感じだったらしいが、積極的な人達も多かった。

そんで、地主とか(お爺さんの祖母がいた)立会いのもと、A子を祈祷師に見てもらうと、祈祷師はA子は詐欺を働いていた。
兄などいない、そもそも名前もA子じゃない、と断言。
やっぱりなー、ってなったが、そこでB男が予想外なことを言い出した。

B男は「A子の記憶を失くしたままに出来ないだろうか?」と言い出した。

「今の自分達は愛し合っているのに、記憶が戻ったらA子にとって自分はカモでしかない、だからA子をこのA子のままにしたい」と、そんな主張だった。

男どもは分からんでもない。
美人だもん。
お爺さんの祖母はふざけんな的な感じだったらしい。

祈祷師は、金くれればやる仕事人間だったので、出来るっちゃ出来るよと言った。
A子にとっては堪ったものではない。
でもB男は金持ちだったんでポンッと出せてしまった。
あとで払うので今すぐとB男が頼み、祈祷師はA子を拘束するように賛成派に、B男には何が聞こえても外にいるように指示した。
だれも入るなと、お爺さんの祖母含む反対派とB男は締め出されてしまった。
数人の賛成派が扉の前で、誰も入れないように見張りに立った。

まあ、察しがついた人もいるかと思うけど、その記憶を消す儀式?は対象が精根つきて気力を無くしていなければ通じないんだと。
男は自分で抜かせればいいんだけど、女は・・・。

当然悲鳴が聞こえてきたが、大丈夫なのか心配しながら尋ねるB男に、あなたのせいで恋人は“まわされてるんですよ”と言える人はいなかった。

お爺さんの祖母はとても後悔していたそうだが、害獣を呪い殺したりできる祈祷師や、有力者達の邪魔をするのが怖くて口を噤んだ。

しばらくして儀式の成功を祈祷師がB男に告げたが、「あと一週間は会ってはいけない。記憶を失う前の知り合いは会わせられない」と、そんなことを言っていたが、事情を知る人からすればバレないための方便にしか聞こえないわな。

そんで一週間後、A子は確かに記憶を完全に失ってはいたが、同時にほとんど無感情で、人形のようになっていた。
根気よく接すれば元に戻ると言われ、B男はまたしても必死に介護したそうな。
お爺さんの祖母など、知っていても止めなかった人は、罪悪感から色々手助けしたそう。
しばらくしてA子は元気になり、B男が家に連れて帰っていった。