心霊・幽霊系

去年の冬頃、しんしんと冷える深夜の中で俺は、帰宅途中に居た。
友達の家で呑んでいたものの、明日の仕事の為に途中で切り上げて帰路についた次第だった。

友達の家から自宅までは閑静な住宅地同士の間に、鬱蒼とした林を挟んでおり、進入禁止の黄色いテープが外周を覆う外観からも深夜には中々の怖さになってどうにも苦手だった。
子供の頃なら遊び場として丁度良かったのかも知れないが、成人してからこの辺りへ越してきた俺にはいつまでも巻かれている物々しい黄色いテープで近寄り難さしか感じられなかった。

そしてとぼとぼと歩いているうちに問題の林の前に着く。
軽一台がギリギリ通れる幅の雑に敷かれた道を挟み、背の高い木々が覆いかぶさるかの様に隣接している。
100m程歩いた先には俺の家がある住宅地だ。
この道の中間地点程に寂しい街灯がポツンと置いてあるが、これが見事に怖さを演出してくれている。
林を避けて大回りに迂回しても帰宅できるが、その道沿いの公道は配送センターが近くにあり、昼夜激しい量の大型トラックが行き来している為、酒の回った足ではどうにも躊躇われた。

たかだか100m程の距離だ、我慢しよう!そう意を決してその林を通過する俺。
こうも暗いと変に想像力が働く為、前を向くのも怖くて俺は足元だけを見て歩いていた。
砂利道とはいえ、不意に大きな石も転がっている為、酒も回っている足では駆け抜ける事も出来ず、ただただ暗い砂利道を歩く時間はとても長く感じた。

そして中間地点の寂しい街灯の近くに辿り着いた。
『後半分もあるのかよ・・・』と心中で悪態をつく。

一方で怖がりな俺は街灯の下に変質者とか佇んでいたら・・・とか、後ろから追いかけられたりとか・・・いらん妄想が膨らんでいたため、このポツンと街灯のみが佇んでいたことに少なからず安心が出来ていた。

「がさっ!!!!!!」

心臓が止まったと思った。
死ぬ程驚いた。

ビクッとして音の方に目をやると右の林からナーォと白々しく鳴きながらトラ猫が出てきた。
『お前ふっざけんな!』と心の中で叫びつつも脚を止めて見ていると、こちらにテテテテっと寄ってきて脚にすり寄って来て周囲を回りながらナーォナーォと鳴いている。
気が抜けて和みつつも、帰らなきゃと脚を進めようとした時、俺の周囲を回って後ろに回った猫がミゴギュッ!と変な鳴き声を上げた。

えっ?

身体が強張った。
振り向きたく無い。
あの猫が周囲を回ってるならもう前にも回ってくる筈だが猫は前には出てこない。
林に戻ったら草を掻き分ける音がする筈だがそれもしない。
ただ俺のすぐ後ろで猫に何かあったことだけが俺に伝わった。

『後ろに誰かいる!?砂利音してないよな!?』

外気の冷たさに反して身体の芯が緊張で熱くなった。
後ろで気配が・・・。
人程の大きさの何かがいる。

俺は全速力で走った!

前は見れない、足元すら見たくなかった。
酔いは完全に冷めていた。石につまづきそうになっても堪えて走り抜けた。
林を抜けた瞬間、耳元でくぐもった様な男の声で、「ふりむけよ」と呟かれる様聞こえた。
俺は「うぁぁぁっ!」と上ずった悲鳴を上げて更に走った!
脚を止めていたくなく、自宅まで全速力で駆け抜けた。

自宅に着いて玄関にへたり込んだ。

『なんだったんだろうアレは、猫はどうなったんだろう』

思考がまとまらず、しばらく座り込んでいた。
やがて息を整えて玄関の鍵を閉めようとすると、ドアのもたれかかった部分に小さな小蝿が沢山潰れてついていた。
確かめて見るとジャンパーの背中には無数の小蝿が潰れてくっついていて、ズボンの背中側の裾には猫の血と思われる血がついていた。

吐き気が混み上がり、衣服を全て脱いでゴミ箱に突っ込んで便所で吐き戻した。

暫くして気持ちが再び落ち着いたものの、とてもじゃないが寝るに寝られなかった。
あの時の事を回想しては恐怖がこみ上げる。

音楽を大音量で流した。
只々あのことから逃避したかった。

夜の出来事を頭の隅に追いやってボーッとしていると鍵を閉め忘れていた事を思い出した。
小蝿や猫の血、嘔吐等ですっかり気が抜け落ちていた。

玄関に向かい、鍵をカチャンと閉めた瞬間、ドアの向こうから「あけとけばよかったのに」と聞こえた。
肌が総毛立ち後ろに飛びのいた。

だがそこから後の記憶がない。
気づけばパンツ一丁で廊下に寝ていて既に朝だった。

鍵はかけている状態だったが、起きた状態からあの声を聞いたのは事実だと認めざる負えなかった。

その後、あの林の街灯で猫の変死体が見つかったのが近所で話題になった。
そこらじゅうの骨が砕かれてる状態で、街灯に尻尾で結びつけられてぶら下がっていたらしい。
街灯部分は脚立でも使わなければ届かない高さだった等、異常性が目立つ為近隣では子供をあの林に近づけない様にと学校で勧告があったらしい。

アレがなんだったのかは最後まで解らず仕舞いだが、俺は以来あの林には近づいていない。