私は『心霊』と言うものにはとても否定的である側の人間。
しかし、『説明(証明)出来ない事象の存在』に対しては肯定的である、そんな人間です。

現実+環境=不思議≠心霊

これが私が信じる方程式。
そんな私が体験した小話を少々。

あれはちょうど今ぐらいの季節。
朝日と共に蝉の鳴き声が響き、夏の訪れを肌と耳で感じるある日の事でした。
その日は早朝より友人との約束を果たす為、車に乗り込み目的地へと順調に進んでいました。
山あいを抜けるワインディング。
木々の切れ間から時折姿を見せる清流のせせらぎは、私の心を癒し、涼しさを届けてくれます。

もう少しで上り坂が終わりを告げようとしていた頃、木々の切れ間に不思議なものを見つけました。
違和感の塊。
それがしっくりくるかもしれません。

後方を確認し、都合のいい待避所(峠等によくある一~二台分ほどの停車スペース)に車を停車させると、再度確認する為に、私はガードレールをまたぎ、よく見える場所まで降りて行きました。

不思議なモノ。
あまりにその景観になじむには異質なモノです。
緑の世界と耳に届くせせらぎの音。
そんな癒しの空間の中に、ぽっかりと空いた禍々しい黒い渦。
それがそのモノに対する第一印象でした。

それは、山肌の中腹に静かに建つ鳥居。
私の知識が乏しいのもありますが、一般的に鳥居と言えば、朱色か白、または石そのものの色。
それが私の中での鳥居のイメージでした。
ですが、目の前にあるモノは黒。
ただ一色の黒。
突如現れた非現実に、恐怖と言うよりも好奇心が私を支配していました。

一歩一歩と近づくにつれ、その鳥居の奥にさらに私の興味をそそるモノがあるのを発見しました。
同じく全身を黒で纏ったモノ。

始めはただ、地面から二本の棒が突き出ているだけなのか、そう思いました。
しかし、よく見てみると違うんです。
それは逆さにした鳥居でした。
手前の黒鳥居を一回り小さくしたサイズの。

鳥居とは神が着地するヘリポートの様なものだと、昔聞いた事があります。
だからこそ天に向いているのだと。
しかし、目の前のそれは地面に向かっている。
様々な憶測が頭の中を飛び交い、沸き止まぬ好奇心は私の歩を進め続けます。

気がつけば、手前の黒鳥居の足元まで近づいていました。

何故か一瞬、足が止まる。
しかし、それを気にせずに進もうと、一歩その黒鳥居の内側の空間に足を入れた瞬間、・・・・・・ぬめり。
そうとしか表現出来ない感触が、ジーンズの上から全身へと伝わってきました。
見えない透明の膜を破り中へと入った。
そう直感できたんです。

あぁ、例えば、夏場の暑い中、大きな生卵の薄皮をやぶり、温くなった白身に足を突っ込んだ感じ。
判りにくいが、それが一番しっくりくるかもしれません。

──あ、やばい。

次にきた直感がこれでした。
踏み出した右足は着地地点が定まらず、未だに宙をブラブラとさ迷っています。
なんとなく、なんとなく・・・『向こう側』へ足をついてはいけない。

私が私自身の為に発する警鐘が左足を踏ん張らせ、なんとも他人が見たら滑稽な姿で必死にバランスをとっていました。

「おい」

突如後ろから聞こえてきた声に驚いた私は、振り返ろうとする力でそのまま後方へと倒れ込みました。
少し臀部に痛みを感じながらも後ろを振り返ると、約束をしていた友人が不思議そうな顔で私を伺っています。

何故ここに?と疑問には思いましたが、話を聞いてみると、私の到着があまりにも遅いので事故にでもあったのかと思い、様子を見に来たそうです。
そして、私の車を見つけ、辺りを探していた、と。

そんなに時間はたってないはず、と思いながら時計を見てみると、すでに午後三時を回っていました。

私が家を出たのが午前六時。
確かに少しぐらいの道草はしましたが、家からこの峠までどう見積もってもせいぜい一時間の距離です。

少しばかり私が混乱していると、友人がジィ、と一点を見つめていました。

友人:「それ、なんだ?」

友人が指差したモノはもちろん、私の後ろに座する黒鳥居。

友人:「不思議だろ?黒い鳥居なんて。奥に変なのもあるしな」

友人にも見えてるのかと、少し安堵したのを覚えています。
時間のあり得ない進み方が、私の中で『この黒鳥居を異物である』と認識し始めていたので。

友人:「黒?鳥居?いやいや、なんだよこの社」

私:「・・・・・・は?」

友人の言葉に思わず聞き返してしまいました。
社など私にはどこにも見えません。
在るのは黒鳥居が二つ。
うち一つは逆鳥居。
もう一度見直しましたが、やはり鳥居です。
鳥居の奥に何かあるのかと目を凝らしても何も見えない。

その時、視界の右隅に友人の姿が見えました。

私:「たぶん近づかない方がいいぞ。あれ?おい」

私の声は何も届いてないかの様に、友人はふらふらとそこに近づいて行きました。

──止めなければ。

そう思い、体を起こそうとしても、まるで鉛の様に腰が重くなり、足に力を入れようにも、ぴくりとも腰は浮き上がりませんでした。

──刈り取られる

何故かそう思いました。
友人が何かに刈り取られる。
それが頭に何度も響きます。
起き上がらないならばと、匍匐前進の逆の要領で、仰向けのまま体を鳥居に近づけました。

・・・・・・ぬめり

またあの感触が全身に伝わります。
しかも今回は露出された腕を入れた為、さらに鋭敏にそれを味わいました。
嫌な感触に吐き気を覚えながら、さらに体を入れ込むと、不思議な事に腰の重みが消えていきます。

友人はゆっくりとしたスピードですが、逆鳥居にあと少しで到達しそうになっていました。
友人が逆鳥居を跨ごうと足を挙げた時、なんとか私は追い付き肩を掴むと、思いっきり友人を後ろに引っ張りました。

しかし、どういう力が働いているのか、びくともしません。
ただ、前へも動けない様子で、まるで動画の一時停止の様にぴくりとも動かない。
この時、不思議な怒りが沸き上がってきました。

『誰に断って人様のツレに手ぇだしとんじゃゴラァァァァァ!返せやボケ!己の毛ぇ全部むしって代わりに竹串毛穴にぶちこむぞ!なんちゃってヘルレイザー(※昔のホラー映画)みたいにしたろかぃゴラァァァァァ!』

途端に友人を縛っていた力が抜け、盛大に二人して後ろに倒れ込みました。

今でも不思議なこの現象。
しかし、友人と二人で体験した為、確実に起こった現実。
今となっては酒の席での笑い話ですが、説明の出来ない事象であった事は否めません。
尚、友人には鳥居が、白い綺麗で荘厳な立派な社に見えたらしいです。「だから触れたかった」と。

しかし反面、人間って異常事態に遭遇しても気合いと根性で何とかなるんだな、と思いました。

唯一の後悔は・・・・・・『貴様の敗因は俺を本気で怒らせた事だ』って、指差して言えなかった事ぐらいですかね。

長文、乱筆失礼しました。
変なモノには近づかないが吉です。