ある夜遅く、川村さんは駅のタクシー乗り場でお客を待っていた。
ふと後部座席を見ると座席の真ん中あたりに、赤い紙バッグがあることに気付いた。
川村さんが車から降りて紙バッグを手に取り中身を確認すると、バッグの中には古びた男ものの黒い革靴が入っていた。

「なんだこりゃ?前のお客の忘れ物かな?」

お客が降りる時には気がつかなかったが、事務所に届ないといけないな、と思っているとお客が来たので、とりあえずはその紙バッグを助手席の足元においてお客を送った。
それから事務所に寄った。

車を車庫に入れて、バッグを事務所に持って行こうとした。
と、急にバッグの中がズシリと重くなり、女性の泣きわめく声がした。

「ええええぇ!!!」

川村さんはバッグを放り出した。
バッグは車庫のコンクリートの上にドサリと落ちると横倒しに倒れ、中では何かがモゾモゾと動いている気配がした。

暗くてよくわからなかったが、中から何かがうーうーと呻きながら出てこようとしているようだった。
川村さんは悲鳴をあげて事務所の明かりの方へと走り出した。

それから記憶の一部が無い。
次に気がつくと事務所の中にへたり込んでいて、電話番をしていた同僚に「どした?!」と声をかけられている自分に気が付いた。

それから同僚と一緒におっかなびっくりバッグを見に行ったが・・・赤い紙バッグは車のそばに落ちていたが、中身は空だった。

川村さん「他にも妙なことはちょこちょこあってさ」

そういったことがまるで駄目な川村さんは、それからしばらくしてタクシー運転手を辞めてしまった。