昔、近所に『アラキさん』と呼ばれるおばあさんが住んでいた。
祖母曰く、“神様の手を借りている方”で、不思議な力を持っているという話だった。
今思うと荒唐無稽な話だが、当時幼かった自分は特に疑問を持たず、自然に受け入れていたように思う。

背中を悪くしていた祖母はよくアラキさんを家に招き、お茶飲みついでに治療を行ってもらっていた。
なんと、アラキさんが手をかざすだけで、背中の具合がよくなるそうだ。
私も一度やってもらったことがあるが、なるほど、背中が熱くなるのを感じた。

私が小学校低学年の頃にアラキさんは亡くなった。
葬式だか通夜だかから帰った祖母に、「アラキさん死んじゃったの?」と聞く私。
祖母は私だけにこっそり教えてくれた。

アラキさんは、その手を神様にお返ししたんだと。
だから、アラキさんの手は骨だけだったと。
痩せていたことの例え話なのか、白骨化していたのかは知りませんが。