あるバイクファンたちが六人で六甲の峠を一列渋縦隊で上っていった。
上りきった山の上から、一台ずつ下り(ダウンヒル)をせめるのだ。

コースの確認のためゆっくりと上っているときだった。
最後尾のA君はバイクの後方から四足で走る音がついてくるのに気が付いた。
その音は重く鈍く聞こえたという。

どう聞いても早い走りではなかったが、なぜか引き離せない。
怖くなって仲間を追い越した。
不思議なことに仲間を追い越すと音が消える。

ひと安心すると仲間がちゃんと順を守って並べと怒っているのに気付き、最後尾に戻る。と、再び音がついてくる。
しかし、バックミラーには何も映らない。
こんなときに限って対向車も後続車もこない。
どうしようと考えていると音がしなくなった。
そこはもう頂上付近だった。

気味が悪かったが、仲間に話すのも恥ずかしいので黙っていることにする。
下りは一台ずつ時間差でスタートした。

A君は無理を言って順番をかえてもらってスタートしたが、走り出してしばらくするとまた音が後方からやって来る。ぞくっとした。
上りの時は注意していなかったが、下りは注意深く走った。
間違いなく途中には追いかけてくるようなものは何もなかった。

何が追いかけてくるんだ?

怖くもあったが今は一台だけだ。
飛ばせばふり切れるかと思ってアクセルを開けた。
しかし、差が開かない。
早く仲間のいる所まで走り切ろうと焦っていると音が速くなる。
いよいよ音が近くなった瞬間、横に牛がいた。

宙に浮いていて速度と足の動きがあっていない。
追い越される瞬間姿が消え、続いて音が消えた。
その時見た牛には首から先が無かった。

下に着くと速いとか自己ベストじゃないとか言いつつ仲間が集まってきたが、A君がヘルメットをとると、みなしんとした。
顔の汗がすごかったのだ。

A君がおちついた時には全員下りきっていた。
その時初めてA君の体験が語られたが、メンバーの誰も牛の足音など聞いていない。
「なんでオレだけなんだ」とA君がつぶやくとリーダー格の人が「服じゃないか」と言った。
A君のライダースーツの色はほとんど赤かったのだ。

この流れのなかで後々の取材では牛の姿が般若の顔だったり女の顔だったりするのである。
念のため書いておくが六甲山には牧場がある。
しかし牛が脱走した話もなければ、峠を下って逃げた例もない。