友達から聞いた話。

彼には、十数年の付き合いのあった鉄オタがいたそうだ。
鉄オタ氏は、ちょくちょく三脚やでかいカメラ、寝袋を愛車のワンボックスカーに積んでは、車両のラストランや、駅の廃止や廃線イベントに参加しているのだという。

その日も古い電車の車輌が引退(廃車)になるラストランだとかで、写真を撮るため、某駅に愛車で乗り付けた。
目論見通り良い場所を確保して、目的の車輌が入線してくる姿をファインダーに捉え、シャッターを押したその瞬間、ホームから初老の男性が何の前触れもなく線路に飛び込んでしまったのだという。

彼の写真は、男性の亡くなる瞬間が克明に捉えられていた。
友達が見せて貰った写真は、線路の下から何本もの白くて細長い、腕のようなものが伸びて、男性を引きずりこんでいるようにも見えたそうだ。

気持ち悪いとか縁起が悪い、或いは決定的瞬間としてマスコミに売ったり、或いは男性の死を悼み消すのならまだしも、件の鉄オタ氏は、折角の俺の写真を汚しやがってと怒り狂ったのだそうだ。
その姿を見て、友達は鉄オタ氏と距離を置く決意をしたのだという。

この話をした後、友人は私に向かってこう言って締めくくった。
あの男性は白い手に呼ばれただけで、殺したのは鉄オタ共じゃないかな。
あいつら、鉄道が死ぬ瞬間、葬式会場にはどこからともなく集まってくるけど、普段は車に乗って切符を買ったことって無いんだぜ。

本当の死神は、蒼の白い手じゃなくて鉄オタの方だよ。