話は一昨年の夏にはじまる。
ある日、俺が二階の自分の部屋にいると外から妹の声がした。

妹「お~い、久志~!(俺の名前、仮名です)」

大声で何度も呼んでいる。
近所まで響くような大声で名前を連呼されてムカついた俺は、窓から顔を出して妹を叱ったが、妹の方はびっくりしたような顔をしてこちらを見上げ、やがてコソコソとどこかへ行ってしまった。

しばらくして妹が息を切らして二階まで上がってきて、真面目な顔でこう言った。
さっき俺の部屋の窓に知らない変なおばさんがいたので、おかしいと思って俺を呼んだら、同じ窓から俺がそのおばさんと重なるように顔を出したので怖くなって逃げた、と言う。

俺は呆れて、「今、この部屋にそのおばさんはいるのか?」と聞いたら、妹は恐る恐る部屋の中を見渡して「おらんみたい・・・」と言うので、その時はそれでおしまいになった。
俺は霊感とか全くないようで、その手のものは見たことがないのだ。

その晩ベッドに入っていたら、隣の部屋の妹がマンガ持ってやって来た。
しかし入って来た途端に『あっ』という顔をするので、俺が「昼間のが居るんか?」と聞くと、頷く。

「どこに?部屋のどの辺に居るんだ?近くに居るのか?」と慌てて聞くと、「もうフトンの所におる、久志の左側に一緒に居る!」と。

それを聞いて俺は堪らずフトンから跳ね起きて、妹と一緒にダッシュで一階の親の寝室まで走った。

両親の寝室で俺は母に話したが、案の定そんなことあるわけないと一蹴された。
だが妹は見た!と言うし、俺もこのままではベッドに絶対に戻りたくなかった。
そのうえ母の態度も妙で、一緒に上に来てと言っても嫌がって腰を上げようとしない。
俺は、これはもう絶対になにかあると思って半泣きになったが、その直後、横で聞いていた親父が「そんなもん気にせんでもいいやろが」と言った。

俺も妹も驚いたが、父が言うには、五年前に今の家を買った時から怪しいやつが居たらしい。

神主とか呼ぶのは近所に体裁が悪いから何もしてない、と言われて親父のケチ根性に腹が立ったが、親父は「ああいうのは見えんやつには何もできんから、おまえには害はないだろう」と言う。

俺の部屋があそこに決まったのも、俺が霊の見えない性質だったかららしい。
俺の家では父と妹は見える人で、母と俺は見えないタイプのようで、俺も霊とか見たことはなかった。

確かに霊の実害はなかったが、そんな理由で部屋を割り当てられたと思うと怖い。
結局、俺は両親に適当に丸め込まれ、以後もその部屋で寝起きしてた。

妹はそれ以来、絶対に俺の部屋に入らなくなったが、俺の方は害がないこともあって慣れてしまった。
部屋にはゴキブリもよく出るのだが、俺は霊もゴキもすぐ慣れてしまう質なのだ。

去年の秋、同じ歳のいとこの弘康(仮名)が家に来た。
その時、弘康に俺の部屋に幽霊らしいものが出ると話したら、俄然興味を示して「絶対見てやる」と言って部屋に入った。

俺が「いつもいるわけでも無いみたいなんだけど」と言い終わらないうちに、弘康が後ろ向きに飛び出して来て、「おまえの寝床」と叫んでいるので、俺も焦って部屋まで行ったが、やはり俺には何も見えない。
弘康の話では、女(の霊)が俺のベッドの周りを反時計周りに周回してるそうだ。

女はごわごわの髪をして、顔はシワだらけで、みすぼらしい恰好の中年の女だという。
夜になって帰ってきた妹にも聞いたが、前に部屋で見たおばさんと特徴がだいたい一致したので、どうも同じやつらしい。

問題はそれ以来、弘康のやつが次々と学校の友達を俺の部屋につれてきたことの方だ。

見えた、と言うのは4人に1人くらいで、中には何もいないと言って怒るDQNもいたりして。
なにしろ俺にも見えないんだから説明できないわけだし。

結局この件は、母が弘康の親に文句を言ったのでやがて治まったけど、妹と弘康が示し合わせて俺をかついでいるとは考えにくいので、そいつは確かにいるんだろう。

俺は今、こう考えている。

親が死んで俺が家を継いだら、この部屋を拝観料(見物料)取って公開したらどうかと。
なんとなく儲かるのではと思うのである。

霊感のない人は見えないので、見えなくても自己責任となりますが、複数の確実な証言があるので間違いないと思います。

I県K市M町のM村家です。
オープンは何年先か何十年先になるかわからないけどよろしく。(宣伝したりして)