母の実家の地域には、ある『呪い』が伝わっている。
それはひどい呪いで、かけた人は自分自身が呪いのために必ず死んでしまうのだが、呪いを受けた相手が死ぬかどうかは半々らしい。

自分の命はなくなるのに効果は半々とは、なんとも分の悪い呪いだな、と当時は思った。

自分が小さいころ母から、むかし近くに住む女性がその呪いをやったと聞いた。
その人はいつも暴力をふるう自分の夫を憎み、その呪いを行って死んだという。

その女性の死後、呪いの道具が見つかったけど、その後、呪いが効いて夫が死んだかどうかは不明である。

今にして思えば、呪いとはこんななのものしれない。
リスクもなく確実に効く呪いなんてあるわけないのだ。
自分は死んでもいい、相手を殺せるならわずかな確率でもすがりたい、そんな憎しみと絶望を持った人だけが呪いなどに手を出す。
だから呪いとは本来、ハイリスクで分の悪いものなのかもしれない。

母は自分にはその呪いの具体的な方法を絶対に教えてくれなかった。
しかし、妹は教えてもらったらしい。

一度、妹にうまいこと言ってその方法を聞き出そうとしたが、『きゅうりの中をくりぬいて皮だけにしてその中に刃物を入れて』まで聞いたのだが、妹の言い方が分かりにくくて何度も聞いてるうちに、母に見つかってしまった。

女性がどうしても絶望した時、最後にすがるための呪いなのかもしれない。