登山が趣味だった先生から聞いた話。

北アルプスに仲間二人と冬山登山した時のこと。
山小屋で一晩泊まるはずが、吹雪で三晩過ごす羽目になったそうです。
夜になって、一人の登山客が転がり込んできました。
聞くと遭難しかけだったそうです。

雪が体中にかかり、寒さでブルブル震えていたそうです。
すぐ日の側に席をとってやり、暖かいものを出してやりました。

「すぐ行かなきゃ」

そう言う男の話では、三人で登山に来ていて雪崩に巻き込まれ、二人が雪の下にいる、と言うのです。

「気持ちは分かるがこの吹雪だ。もう手遅れだろうし、今は自分を大事にしろ」

そう言うみんなの言葉にも耳を貸さず、男はまた出て行こうとします。
なおも引き止めようとすると山小屋の主人が、「いや、あんたは行った方がいい」と言うのです。
それを聞いて男はまた、吹雪の中へ出て行きました。

なんて馬鹿なことを言ったんだ、と言うと主人は、「気づかないのか。入ってきた時も息が白くなかった。部屋で暖をとっても、体の雪が溶けなかったじゃないか。あれはこの世の人じゃない。未練があるなら行かせてやれ」と、そう言われて初めて、ぞっとしたそうです。

翌朝吹雪も晴れ、下山して通報しました。
捜索の結果、雪崩に巻き込まれた二人の遺体と、行き倒れた一人の遺体が発見されたそうです。

三学期を一週間も休んで山に登っていた先生が、お詫びに話してくれました。