北東北のある町に住んでいます。

渓流釣りが好きで、シーズンになると毎週のように釣りに出かけます。
もともと周りが山深いので、車で30分も走ると町を流れる川の源流部に到着します。
家等は無く荒れた山道があるだけで、その周囲を釣り場にしていました。

その日は魚の食いが悪く、イワナがまったく釣れませんでした。
少し場所を変えようと思い、一キロほど上流まで歩くと、大きな淵に突き当たりました。

いつも通っている道のすぐ脇なのに、今まで気が付かなかったのが不思議でしたが、両側を見上げるような深い岩と木々に囲まれたそこは薄暗く、しん・・と静まり返っていました。

ちょうど大きな釜の底のような場所で、いかにも大物が居付きそうな深い淵になっていて、釣り人に踏み荒らされた跡も無いのを幸いに、すぐさま竿とエサをセットし、一投目を淵の流れに投げ入れました。

・・・ごにゅごにょ・・・だ・・・。

「えっ!?」

誰かに小声で後ろから声をかけられたのです。
正確には、耳元で確かに誰かの語る声が聞こえたのです。

淵の岩場の上に誰か別の釣り人が来たのかと思いましたが、下草の生えた場所なので、音を立てずに周囲に来ることなど無理なはずです。
現に今はサワサワという水音しか聞こえません。

何かゾクッとしたものを感じたのですが、気が付くと投げ入れた仕掛けが何かに根掛かりし、仕掛けを切る羽目になってしまいました。

なかなか仕掛けを失うなんてヘマはしないのですが、その時はそれで悔しくて、声のことはすぐに忘れて再び仕掛けとエサをセットし、再び淵に流しました。

そして流して数秒後、くんっ・・とした手ごたえ!

アタリキターーー!?

そう思った瞬間、糸がずりっ・・・と水中に引き込まれ、ぽきりと竿の先10センチほどが見事に折れてしまいました。

カーボン製の普通の渓流竿ですが、シーズン中ずっと使っていて、ぶつけた訳でもないのに・・というか1万円もしたのに・・と思考停止状態で唖然としました。

予備の竿先も持ってきていなかったし(通常そんなに折れるものではない)、何か嫌な予感がしたので、結局その場所での釣りを諦め竿を畳みました。

その後、岩場の横を登り山道に戻ろうとした時、目に入ってきたのは、古い石でできた石碑?のような石が、数個積み重なって蔦に覆われている姿でした。(何かいわくのある場所なのか??と、その後釣り仲間の誰に聞いても分かりませんでした)

そもそもあの竿が折れた時の、違和感のある“感触”は魚だったのか・・・?

その出来事以来、直感で嫌だなと思う場所での釣りは控えるようにしています。