子供時代の体験は、どこまでが空想・幻覚・幻聴で、どこからがリアなのか曖昧だよなあ。

俺は眠るのに2、3時間かかるほど寝つきの悪い子供で、布団に入ってからいつも天井の木目をながめていた。
そうすると木目が生き物みたいに動き出すんだ。
やがて木目をアメーバのごとく自由に動かせるようになったが、子供心にもこれは幻覚だと解かっていた。

俺はこの『幻覚遊び』が好きで、起きている時も箱から出ているテッシュをじーっと睨んでそよがせたり、テーブルの上のチラシを眼ヂカラだけで床に落としたりしていた。
四六時中息を詰めて何かを見つめている子供だったので、お袋からは「いつもボーッとして!」とよく怒られていた。
怒られて頭にくると、台所に立つお袋の後ろ姿を長々と睨みつけ、エプロンのヒモをほどいて、ささやかな仕返しをした。
そうした現象も、自分では全部偶然だと思っていたんだ。

そういう俺も小3頃からは現実世界に覚醒して、友達との野球やサッカーに熱中し始めたので、いつしか幻覚遊びをやることはなくなった。

でも今にして思うと、あれは本当にすべて幻覚だったんだろうか?と、首をひねってしまうところがある。
車で仕事から帰って来る親父は、三輪車が邪魔で車が止められないと言って、「ちゃんとどかしておいたわよ!」と言うお袋とよく口ゲンカをしていた。
その三輪車、実は俺が動かしてたんだよ。

夕方にお袋が三輪車を駐車スペースの隅にどかすのを見ると、2階に飛んで行って、廊下の窓から30分くらい睨み続け、じりじりと三輪車を動かす悪戯が好きだったんだ。