私には少しおかしい友人がいる。
Sから始まる少し珍しい苗字の男で、付き合いの長さ的には親友なのかもしれないが、個人的に悪友と呼ぶ方がしっくりくる、そんな奴だ。

和歌山の高校で知り合い、三年の間、それなりにつるみ。
卒業した後、私は単身赴任している父の元で世話になるために東京へ。

Sがどこへ進学するのかは、あまり興味がなかったのか聞き忘れていた。
あちらも同じだったのか、進学先について聞かれたことは一度もなかったと記憶している。
なので、もう会うこともないだろう、と考えつつ自転車をこいでいた四月の夕暮れ時・・・普通に再会した。

なんでもその日は、Sが通うことになった大学(Sの見栄と名誉のためにT大と書いておく)の入学式だったらしい。

「なんとなく、帰りは来た時と違う道、通ろおもてなー」

そのなんとなく、で遠く離れた東京で再会するのだから不思議なもんだと、飲み会するたびにぼやいている。

前置きが長くなったので本題に入ろう。

酒の席などで笑い話として話してくれた、普通の人にはあまり笑えないSの少しおかしい話を書かせてもらう。
S本人の手直しも入っているので、本人視点が混じって読みにくい箇所も多いと思うが、その辺は気にしないでほしい。

Sがまだ、父方の実家に引っ越す前。
大阪のT市で幼稚園生をやっていた頃の話。

その日は今にも雨が降りだしそうな鉛色の空で、ゴロゴロと雷の音がしていたそうだ。
家に来た友達二人に誘われて、Sはその悪天候の中、遊びに出掛けた。

三人が遊び場所に決めたのは、四隅に高い竹を立て、幣のついた細い縄でそれぞれの頂点に結んで囲んだ・・・ようするに、地鎮祭をしたばかりと思われる土地。
いつ雨が降ってもおかしくない曇天。
しかも、雷まで鳴っている状況の中、友達の提案で宝探しをしたそうだ。

宝探しを始めてすぐ、Sは土に半分埋まっていたゼットンの塩ビ人形を掘り当てた。

そして、友達二人に見せるためにそこを離れようとしたところ、何かに蹴躓いた。
起き上がり、何に躓いたのかと地面に目をやったSが見たのは、地面から生えた二本の指・・・だったらしい。

女の人の指・・・。
それもなぜか、人差し指と中指だけが、地面の中から突き出ている。

曇天、雷鳴、儀式を終えて間もないと思われる空き地、そしてトドメの女の人の指二本。
これだけ揃えば悲鳴の一つも上げそうなものだが、やはりSは幼少の頃から少しおかしかったらしい。
何を思ったのか、Sはその指二本を怖がりもせず、まずその指の爪を撫でた。

「感想はツルツルして綺麗な爪やなー」

続いて、地面から生えた指二本を摘まみ、感触を確かめた。

「感想は冷たて硬いー」

話を聞いていて、この時点で既に理解できなかったのだが、Sの真骨頂はここからだった。
地面から生えた二本の指を掴んで、思い切り引き抜こうとしたらしい。
どれだけ力を込めても抜けないので、大根を引き抜く時の要領で前後に揺さぶったりしながらのコンボ付きで。
純粋だからこそ子供は怖いと言うが、幼少期のSは別の方向で怖い子だったらしい・・・。

ここから先は、S宅で飲みながらした会話をまとめたもの。

俺「そんで、この話ってここで終わり?」

S「おぉ、結局どーやっても抜けへんかったし、雨も降りだしたからそのままほっぽって帰った」

俺「いや・・・警察に言った方がよかったんとちゃうん・・・?」

S「そん時は『地面から指が生えることもあるんやなー』程度にしか思わんかったし。一応それ思い出してから事件やら調べたけど、死体埋まってた的な話はなかったでよ」

俺「Sの話ってオチがないのばっかで、聞くとモヤモヤするんだけど・・・」

S「訳のわからんもんにオチ求められても・・・。あ、そういやこの話で気になってることあるんやけど、この遊びに行こて誘いに来た友達二人って誰やったんやろな?」

雷が落ちてもおかしくない悪天候の中、外で遊ぼうと誘ってきた友達。
その子達についていくのを、Sの親はどうして止めなかったのか。

・・・たぶん、Sが今まで無事だったのはソレ関係に対して凄く大雑把なのが一枚噛んでいると私は思っている。