私の父は、昭和三年生まれ。戦前派です。
そんな父が、このGWに私を呼び出しました。

父「お前に見せておきたいところがある。ちょっと付き合え」

実家で父を車に乗せ、言われるまま本家に向かいました。
ただし、本家ではなく、その裏山入り口へ。

いい年してますが、さすが先輩ハンターでして、その山道を私を率いてどんどんのぼっていきました。
途中、きょろきょろしたかとおもうと脇へ飛び込んでいきます。
道なんてありません。
30m位藪コギしたでしょうか・・・白い石がみえました。
苔で白っぽく見えたのですが・・・。
その石を両手で撫でながら、親父が話し始めました。

人間魚雷『回天』搭乗員の訓練中に死んだ兄のこと(これは聞いてました)、そしてその兄が、夢枕で弟(=私の父)に託したもの。

昭和20年の春、学徒動員で千歳に行っていた父の夢枕に、兄がたったのだと。
優しく笑いながら話しかけてきて・・・いつのまにか、(戦前に)一緒に遊んだ裏山の秘密基地(白い大きな石のところ)にいたこと。

叔父は、「親父おふくろと、兄弟を頼むよ。俺はもうだめだけど、お前は長生きできるそうだから。この場所で一杯遊んだな。家に帰ったらここに来い。お前に渡したいものを置いておくからね。頑張るんだぞ・・・」という意味のことを言って、じっと親父を見つめたそうです。
そのとき、夢から醒めたと。

叔父の訓練中の死亡連絡が、実家から届いたのは二日後。
その後、すぐに浜松へ動員先が変わったそうで・・・。
移動途中、実家へ寄れた父は、約束?を守るべく秘密基地にすぐに向かったところ。
石の上に、短剣が。
元は銘刀だったものを、叔父と父の二人が悪戯して剣先一尺ほどで折ってしまったものを、出征するにあたって懐刀として誂直したものでした。
錆びることもなく、白鞘から綺麗にぬけた刀身をみて、父は号泣したそうです。

その話をしてくれた父は、私にその短剣を渡しました。

父「あの時代、みんな精一杯に生きたんだ。その想いだけは、素直に受け止めてほしい」

父の涙をみたのは、生涯二度目でした。
一度目は実母の葬式の時でした。

急で、なおかつ目的も知らずにつれていたかれた為、線香も水も持っていませんでした。
手持ちのタバコに火をつけて、たむけのかわりとしました。