その崖は、石を産む。
斜面のあちこちに顔を出している石が、数年かけて露出し、ごろんと転がり落ちる。
斜面が削れるわけではない。
地中から、何かの力に押されて出てくるとしか思えないという。

石の大きさは両手で抱えられる程度で、村の娘数人が山から運び降ろしてくる。

広場に石が据えられると、焚き火が始まり、炎は石を包む。
石の表面が熱で割れ、弾けて飛び散ると、村人はその破片を拾い、皮で作った小袋に入れて御守にする。

この御守、持ち主の危険を察知し、持ち主の身代わりになって袋の中の石が粉々に砕けるという、不思議なご利益がある。
事故や大病で人が死ぬと、所持している御守を確認するのが村での習慣になっているが、ほとんどの場合、石は砕けていない。

持ち主が大きな事故に遭ったり、大手術で助かっても、石が砕けていることはなく、普通に日々を過ごしている中で、ある時ふと気付くと、石が粉々になっているのだという。
どうやら、持ち主が察知できない危険や、大変な災厄を事前に取り込んで砕けてしまうらしい。

そして俺の御守はどうかと思って見てみるが、石は何でもない。
小指の先ほどの平たい破片が、いつもどおり皮袋の中にある。
村民でない俺にはご利益がないのか、あるいは、いつか砕けるのか。

その時が来るまで分からない。