友人の話。

彼女の実家は山中の里にあり、幼稚園に上がる頃まで彼女もそこに住んでいた。
そこの裏山に、幼い彼女の奇妙な遊び友達がいたらしい。

ある晩、母親が就寝しようとすると、彼女の姿が消えていた。
慌てて探すと、濡れ縁にちょこんと腰掛けている愛娘が見つかった。
駆けよろうとして硬直する。
母の足を止めたのは、ズズッズズッという音だった。
重い物を引き摺るような、耳障りな摩擦音。

幼い娘の目線の先、広い庭の草の上で、何かがずりずりと這い回っていた。
息を殺して見つめるうち、それが黒いゴツゴツとした石だとわかった。
大人と同じくらいの大きさで、自力で這いずる石。

見たところ、娘が指差した場所に向かって、大石は動いていた。
子供らしい気まぐれで娘は次々に指す向きを変え、石は諾々とそれに従う。
娘は楽しくてたまらないように、キャッキャとはしゃぐ声を上げていた。

やがて、唐突に石は空に浮かび上がり、暗い山へ向かって飛び消えた。
娘は無邪気そうに、バイバイと手を振っていた。

あり得ないない光景を見た母親は初め、自分の頭を疑ったそうだ。
しかし、それから注意して娘を観察するうち、一人で石と戯れていることが多いことを知ってしまった。
大抵は夜だが、日中に遊んでいることもあった。

相手は毎回違う石みたいだったが、時には石灯籠だったり、所々が欠けた稲荷様だったりもした。
崩れかけた墓石だったこともあったらしい。

さすがに自分の手に余ると思い詰めた母親は、家族に相談した。
義母は迷うことなくこう言った。

この子はこの山の側で暮らさん方がいい。
いつか連れて行かれるから。

それからしばらく後、彼女は両親と共にそこを離れ、離れた町中に居を構えた。
その甲斐あってか、いまだに彼女は山に連れて行かれてはいない。
彼女自身は、まったく石と遊んでいた記憶がないのだという。