小5の春の日曜日、いつものように近所の子達と遊んでた。
その頃の田舎の遊びなんて限られてる。
鬼ごっこ、かくれんぼ、木登り、ビー玉とか・・・。
でもその日は違ってた。

8人(女子含む)くらい集まったんでもっと広いところへ移動した。
近くに沢があるんだが、そこで蟹取ったり水を掛け合ったりしてた。
それまでも何度かは遊んだことがあるところ。

で、小便がしたくなったんだ。
A,B,Cと連れ立って女子から離れるように移動した。
いわゆる連れション。
そこで初めて気が付いた。
石が塔みたいに積んであるんだ、何個も。

「これにしよーぜ」ってことになって4人がそれぞれ狙ってたんだが、俺達が居なくなったのに気づいたB姉(小6)がやって来て怒られた。

B姉(小6)「これはお墓なの。そんなことしちゃダメでしょ」

源平の話も聞くが、家の近所では戦国時代のほうがメインだった。

「長曽我部が攻めて来た時、逃げ遅れたお姫様が今も首のない馬に乗って走る」とか、「落ち武者狩りであそこで何人、こっちで何人氏んだ」とか昔話で聞いていた。

B姉言うには「落ち武者のお墓だからちゃんと謝りなさい」と。
ビビりまくった俺達は必死で手を合わせたよ。

翌日、Bが青白い顔で登校してきた。
理由を聞いたら、「昨日、台風みたいな風が吹いてたろ。煩くて眠れなかった」と。

B以外、そんな音聞いてないし、そんな大風吹いてなかったから「お前、ビビらすなよ」なんてからかってた。
昼前に「体がすごく重いから」とBが早退した。
俺とA,Cの頭には前日のことが浮かんでた。

その晩、夜中に目が覚めた。
Bが言ってた台風みたいな風音で・・・。

だんだん近づいてくるのが解って、布団に潜り込んで念仏を唱えてた。
しばらくしたらだんだん遠ざかっていくのがわかって、助かったと安心したのかいつの間にか寝てた。

その翌日、Bは休みで、Aが青白い顔で登校してきて、Bと同じことを言った。

「体調が悪い」とAも昼前に早退した。

沢からA家の途中に俺家がある。
昨晩のは俺を見逃したんじゃなくて、通り過ぎただけだと思った。
今晩は俺の所に来るって妙な確信があったから、姉と一緒にいないといけないと考えた。
姉は比較的「見える」らしかったから助けてくれると勝手に思ってた。
車庫の2Fで一緒に寝たいと拝み倒して、なんとか一緒に寝ることができた。

夜中。
風の音で目が覚めた。
来た来た来た来たーて震え上がったよ。
でも姉がいるから安心とも思ってたんだ。

だんだん近づいてくる風の音、昨日よりも確実に大きく聞こえる。
家の前に来た時に風の音がピタと止まった。

「あれ?」と思ったのも束の間、2Fへの階段を上がってくる音が聞こえた。
階段は外にあって、鉄で出来てるやつ。
学校とかにもあるような、歩くと「カン、カン」て音がするアレ。
あの音が聞こえてくる。
パニック寸前の俺が、助けてもらおうと姉を揺するが一向に起きない。

で、階段を登りきった音が聞こえた。

「うわー」て心の中で叫んだ瞬間、「ドンドンドン、ドンドンドン」てドアをノックする音が。
ものスゴイ音なのに、家族はおろか姉も目を覚ます様子が無くて。
ただひたすらに「ごめんなさい」を連呼してた。

「許してください」って。

気が付いたら薄明るくなっててノックも聞こえなくなってた。

学校はA,Bとも休んでた。
俺の顔色見てCも何があったか想像できたらしく、会った瞬間青白くなった。
体はだるーくて重かった。
ひどい風邪を引いたみたいな、そんな。
俺も昼前に早退した。

夕方、「見える」おじさんが来た。
おじさん家はかなり離れてるんだけど、近くで釣ってたついでに釣果の御裾分けに来た。
で、俺を見た瞬間何も言わずに連れ出された。
教えてないのにA,B,Cの家に行ってみんな連れ出した。
おじさんは実績があったから「祓ってきてやる」の一言で各親は納得してた。

沢に行って墓の前で上半身裸にさせられた。
おじさんがなにやらつぶやいた後「俺の真似しろ」て言われてその通りにした。
なにかの呪文を唱えてたら吐き気がしてきた、その瞬間、バーンて、おじさんに背中を平手で殴られた。

ふっと体が楽になって、A,B、を見たら背中に紅葉が出来てた。
おじさんはCを殴るところだった。

帰り際おじさんに「もうあそこで遊ぶな」と言われた。
俺達はもちろん沢で遊ばなくなったし、近所学校のものも遊ばなくなった。
今の子供達も沢で遊ぶことはない。
カードゲームとかTVゲームとかで、外で遊ぶこともなくなったからかもしれないが・・・。

問題の沢だけど、今は家の土地なんだよ。
祖父が半分騙された形で家族に内緒で買った。

数年前父に「万が一の時の為」て土地の境界を見て周ることもあったけど、俺は一切沢に近づかなかった。

今でも近づいてない。