暑くて眠れずにぼんやりしていたら、ほんのり不思議な体験を思い出した。

たしか小3の夏休みだったと思う。
朝からくそみたいに暑い日だった。
家にいても暑いだけなので、母とふたり、車で図書館へ行くことにした。

普段は図書館で読み切ってしまうので借りることはなかったが、その日は「日本の地獄絵巻」という、挿絵が豊富な本を一冊だけ借りた。
地獄を紹介している本だけあってグロい絵が多かったが、女性の着物がはだけていたり、縛られていたりと、小3男子には刺激的な本だった。

地獄も気になるが性的なあれやこれやも気になってくる年頃だ。
これは家に帰ってひとりで読まねばならない、という使命感にかられて借りてしまった。
車の中で、挿絵をチラ見してドキドキしていたのを覚えている。

家に着き、さあ本を読むぞと意気込むが肝心の本が見当たらない。
母に聞いても知らないという。
車の中のカーペットを剥がしてまで探したが、とうとう見つからなかった。

混乱しながら記憶をたどるが、車の中で挿絵をチラ見したのは確かだから、図書館に忘れてきたということはない。
チラ見した後、どこへ置いたかは覚えていなかったが、窓は閉まっていたし、寄り道もしていないのでどこかに落とすことはないはずだ。

結局、返却日になっても本は見つからなかった。
納得がいかないものの、素直に謝ろうと、また母と図書館へ向かった。

受付カウンターに行く前に、オカルトコーナーの棚を見てみると、なくしたはずの「日本の地獄絵巻」があった。
母とふたり、本棚の前であほみたいな顔して突っ立ってた。
なんでここにあるのか、さっぱり分からなかった。

混乱しながら受付のお姉さんに事情を話して貸出記録を確認してもらうと、確かに俺が借りた記録があったが、返却された記録はなかった。
なぜ本棚に戻されているかはわからないと言って、お姉さんは怪訝そうな顔をしていた。

あの刺激的な挿絵に未練はあったが、なんとなく薄気味悪くて、もう一度借りる気は起きなかった。