私はボードゲーム好きでチェスや将棋、麻雀のセットなどをコレクションしています。
4年ほど前、ヤフーオークションで象牙製を謳うチェスセットが5000円で即決ノークレームノーリターンで出品されておりました。
象牙の物は大抵、数十万円するのでまず偽物なのですが、デザインがエスニック風でとても気に入ったのすぐに落札しました。
落札後のやりとりで出品者にノーリターンを念押しされたのが記憶に残っています。

商品が到着後、駒を良く見てみると1個1個が微妙に異なり、象牙特有の年輪状の模様が見えました。
まさかと思い、都内の象牙を買い取りしているお店に行って鑑定していただいたところ、本物の象牙製であることが発覚しました。

良い買い物をしたが自分の手には余る物を手に入れてしまいました。
結局の所、荒く使うのも勿体ないので自宅の箪笥に大切に保存し時折、箱から引っ張り出して眺めてニヤニヤするのが主な用途となりました。

購入してしばらくして奇妙なことに気付きました。
眺めてニヤニヤした後、片付けたはずの駒が机の上やキーボードの上などにぽつんと置いてあるのです。

最初は単にしまい忘れただけかなと思いその都度、片付けていました。
しかし日数が経つにつれて放置される駒の数が増えていきました。

朝、目が覚めたら机の上で黒駒が綺麗に総立ちしていたこともありました。

さらに就寝中に駒が私の方をジトっとした表情(雰囲気といった方が良いかも知れません)で見下ろしてくる夢まで見始めました。

さすがにこれだけ異常事態が発生すると、「いわくつきの品を掴まされたかな」と思い始めました。

当時、理系の大学生だった私はあり得ないという理性と本能的な危機感の間で板挟みになりました。

危機感が勝り、そろそろ神社にでも持ち込むかな・・・と考え始めた頃、同じくチェス好きの友人が自宅に訪ねてきました。
目ざとい彼女は即座にそのチェスセットに興味を示し是非、これを使ってプレーしてみたいと言い始めました。

こんな気味が悪いものを使うのは気が進まないので事情を一部説明しましたが、彼女も理系なので私の説明などどこ吹く風。
さっそく3ゲームほどやってみました。

プレー中は特に問題もなく、彼女も帰宅したその日の夜のことです。
その日の夢はいつものと違いました。

チェスの駒が現れるのはいつも通りでしたが、表情(彫刻の人相がいちいち変化するというのもおかしな話ですが)が大分柔らかく、満足げな様子に思えました。(人間に例えると満腹したときの顔です)
その日以降、おかしな現象はしばらく止まりました。

そしてチェスの駒は再びニヤニヤ眺める用に戻ったのですが、数ヶ月放置すると再発しました。
理系として負けた気もするのですが、ここまできて私は「こいつら、闘えなくて拗ねてるんじゃないか?」という考えにいたりました。

しかしチェスはプレーするのに相手も必要、そう簡単に毎日使うことはできません。
そこで私は駒の置き場所を大学の所属する研究室の談話室にすることにしました。
そこならばほぼ毎日、誰か暇な学生か教員が使ってくれます。
そして問題の現象は完全になくなりました。

駒を購入して二年後、研究室のママさん研究員さんの息子さんが保育園を卒園し、放課後しばしばうちの研究室に入り浸るようになりました。
最初は実験の合間の暇な学生達とジェンガや人生ゲームに興じていました。
しかし音がやかましいと国試を控えた上級生達に指摘されたので、私がその子にチェスの手ほどきをしました。

最初は当然、あまり強くないのですが、一、二ヶ月もすると当時、院生になった私すら圧倒する腕前になっていました。

異様に早い上達に驚き、その子のお母さんの研究員さんに何か教本などを買ってあげたのかを聞いてみましたが、特にそんなことはないといいます。
インターネットやコンピューターも使わせていないとなるとますます疑問です。

ひょっとして天性の才能を発掘したか?と思い、その子に聞いてみたところ「時々、夢に駒が出てきて教えてくれる。ゲーム中にもなんとなく教えてくれる」というのです。

プレー中のなんとなく教えてくれるという部分がいまいち、明瞭ではありませんでしたが、以前、私が経験した現象をその子も体験しているのではないかと考えました。

私と違ってその子は駒達に気に入られているようなので、しばらく駒を観察して害もないようならば、事情を説明してその子が高校か中学校に入学したらセットをプレゼントするのもありかな考えています。

以上、長文失礼いたしました。