当時ある週刊誌が日本に存在するピラミッドなるものを盛んに特集していた時期があった。
天然の物だと思われていた山々のなかに、古代のピラミッド群が混じっているのでは・・・という話だったと記憶している。

当時父は広告代理店に勤めていたのだが、そのピラミッド・ムーブメントの火付け役である雑誌編集長を招いて、会社支部のセミナーにてスピーチを依頼したことがあった。
スピーチの内容そのものについて、父がどのように語っていたか忘れてしまったが、その調査にはある超能力者が協力していたそうだ。

確たる証拠が見つからなかったのか、このピラミッド騒動はその後すっかり鳴りを潜めてしまったが、当時の文化庁が少なからず興味を示していたようである。

セミナーが終わり、主催責任者の父が編集長を交えて談笑していたところ、彼は「さっきの講演会で話さなかったことがあるのですが・・・」と言った。

どのような経緯でそうなったのか、件の超能力者が調査に関わる人間たちの前で自分の能力を披露することになったという。
その場にいた複数の人間がテーブル上を注目するように促され、全員が注視する中、彼が手をかざすとテーブルの上にふッと仏像が出た。

超能力者がとくに怪しげな動きをしたようにも見えなかった。
誰もそのテーブルの上から目を離さなかった。

もちろん瞬きはあったかもしれないが、コンマ何秒ではたして仏像をテーブルの上に置くことが出来るかどうか?
どうみても、その仏像は唐突なくらいテーブルの上に現れたとしか言えないのだ。

巧妙な手品か、いわゆる集団催眠ということかも知れない。
それはそれで見事というしかない。

しらない間にガスか何かを含まされて感覚がおぼろげになった可能性もある。
ありとあらゆることは考えられるが、では仏像そのものはどうだろう?

成分を分析したところ、その仏像は何から出来ているのかがまったく分からなかったという。
仏像の高さは約20センチほどだったそうだ。

驚いた父が何故その話をしてくれなかったのですか?と聞くと、編集長曰く、「そんな話、誰が信じますか?私でさえ信じられないのに。話したらピラミッドの話までウソ臭くなるじゃないですか」と。

もちろんその仏像の件も不思議ではあるが、オカルトめいた話とは縁のないはずのサラリーマンである父がそのような世界を間近に接したという、その状況自体もなんだかとても不思議に感じられたように記憶している。