知り合いの話。

彼はかなりの高齢で、かつて山の火葬場で働いていたという。
働くといっても仏が出た時だけで、普段は農作をしていたらしい。
祭りで一緒に作業をした時、奇妙な談を聞かせてくれた。

知り合い「人を沢山焼いているとな、変な物が見える時がある。火が回ってしばらくすると、死体から黒いのがひょんひょん抜けて来るんじゃ。煙というより、墨みたいなもんが、こうパァっと宙に広がってな。まぁすぐに火に炙られて、溶けて消えるんじゃけど」

それが見えるのは、大抵が大病患いで死んだ人だった。
彼の住んでいた山村にはクダと呼ばれる物の怪がいたらしいが、“こいつ”が憑くと人は病になってしまうといって嫌われていたという。

知り合い「案外わたしが見ていたのは、そのクダじゃったのかもしれんの」

そう言って彼は、白い歯を見せて笑った。