友人の話。

幼少時に里山で遊んでいた時のこと。
野中の小道を走っていると、ガシッと見えない何かに身体を掴まれた。
幾つもの掌に、手足や肩を握られているよう。
まったく身動きが取れない。
藻掻いていると、いきなり誰かの掛け声が聞こえた。

へやっ!

次の瞬間、彼の身体はくるりと一回転をして、地べたに叩き付けられていた。
痛みと衝撃で、しばらく身動きできなかったという。

翌日学校でこの話をすると、皆がしたり顔で頷いた。

「あぁ、あそこって“三四郎”がいるからねぇ」

どうやら子供の世界では、そこそこ有名な存在だったらしい。
どいつもこいつも見境無く、しかし見事に投げ飛ばすので、いつの間にか“三四郎”と呼ばれるようになったのだとか。

「大人は出会ったてないらしいから、奴も子供なんじゃないの?」

そうも噂されていたそうだ。