知り合いの話。

彼の地元の山中には、一風変わった淵がある。
そこは恵比寿淵と呼ばれており、様々な物が流れ着くという。
エビスという言葉は、漂着物のことを指すのだそうだ。

不思議なことに、水源としてはかなり上流に位置するにも拘らず、どう見ても海からの漂着物が流れ着くことがあるらしい。

友人はそこで、手紙らしき紙の入った壜を見つけたことがある。
どこから来たんだろうと取り上げ、蓋を取ろうとして硬直した。

壜の中、黄ばんだ紙の下に、黒く干からびて縮んだ物を見つけたのだ。
細長いその数は三本。
片端に濃灰色の爪らしき物が付いている。
恐らくは人間の指だったという。

壜を水に戻し、そっと淵の中央に押しやった。
彼はその後しばらく、恵比寿淵には近よらなかったそうだ。