具体名はふせるけど、先輩は研究所とか実験所が多い、ある地域に住んでる。
もう3,4年前だが、先輩は夜遊びが好きだった。

自宅は大きな研究所に面した閑静な住宅街。
深夜2時前後、先輩は盛り場からマイカーで帰るところだった。

灯りが少ない道でふと余所見をしたせいで、飛び出してきた奴とぶつかっちまったらしい。

『やべえ・・・』と青くなって、車から降りてそいつのところへ駆け寄ったんだけど・・・そいつ人間じゃなかった・・・。

動物って意味じゃない。
見た目裸の男性なんだけど、体が不自然に黄色くて、そして顔が不気味だった。

口が円形で360度内側に向かって歯が生えてて、目は細い。
基本的に無毛、あと生殖器は足のせいで見えなかった。

そいつピクピク痙攣してて、放っておいたらヤバイ雰囲気だったらしいけど、躊躇したんだと。
『こいつ研究所から逃げてきた人間の遺伝子を使った化物とかじゃないか?』って考えたそうな。
通報したら、後で身元調べられて口封じされる・・・みたいな陰謀がガガーっと頭をめぐったんだと。

でも結局、先輩は可哀想で無視できなくて、すぐに公衆電話で通報した。

細心の注意を払いながら、硬貨と電話に指紋が残るのを避した。
その後、うまくいったのか先輩は無事に過ごせた。

翌朝、警官が事故の処理してたってことだけ親から聞いたらしい。
バンパーの凹みは親戚の車屋に頼んで直してもらったんだと。

先輩はそれでも怖くて、このことと俺自身を多くの人に知ってもらえば先輩は安全でいられると思って、なるべく多くのリアル友人達に話したんだ。

そんな荒唐無稽な話、俺を含め誰も真剣には取り合わなかった。
もともと変人だったからね・・・先輩。

それから2年くらいは何もなかった。

でもちょうど今くらいの季節に、ひき逃げで先輩は帰らぬ人になった。
ひき逃げ犯は今も捕まってないらしい。