かなり以前のこと。

当時勤めていた職場に、Aさんという人がいた。
Aさんは、自分の席の横の窓から飛び降り自殺した人がいることを、半ば自慢にしていた。

新入社員や営業さんがやってくると、わざわざ窓枠に残っている足跡を見せて、「これがこの人のこの世での最後の足跡なんだよ」とか、「僕が部屋を出るときすれ違ったから、僕がこの世で最後に出会った人間なんだな」とか言っていた。
足跡は、雨にあたらない所にあったせいか、長い間残っていた。

ある時、大掃除があって、その話を知らないアルバイトの女の子が窓枠をきれいに拭いてしまった。

Aさんはすごく不機嫌になり、女の子をネチネチいじめていたが、ある時から何も言わなくなった。

窓枠に再びホコリがたまり始めたら、あの足跡が現れたからだ。
Aさんの自慢話はぴたりと止まった。