友人から聞いた話です。

彼の実家の近くに、天狗が住んでいると言われている山と神社があります。
その山は今でも修験道とか山伏のような格好をした人が、修行をしにくることがたまにあるそうです。

年に一度、その神社では祭りがあり、祭りの日には天狗が山の隠れ家から出てきて神社に泊まっていく、という言い伝えがあります。

毎年、彼は青年団として祭りを手伝っていて、その年も祭りの準備をしていました。

そのお祭りは宵の口から始まって、終わるのは夜中という祭りなので、準備は昼過ぎから始まりました。

その日は朝から曇り空で、下手をすれば雨になるかもというような天気だったので、彼は祭りの準備をしながら空ばかりみていました。

休憩の時、空を見上げた拍子に山の頂上が目に入りました。
その山の頂上は岩がむき出しで、人がいると見ただけで分かるそうです。

その山頂に誰かが立っていて、空に向かい扇子のようなもので扇いでいました。

近くにいた人に「あれ、何やってるんですかね?」と指差しても、「あん?何もねえじゃねえか」と言われ、「おかしいなあ」と思いつつも作業に戻りました。

準備も終わり、解散になったとき山を見上げると、まだ誰かが空を扇いでいました。

「一体、何してるんだろ?」と気になった彼は、その人影をずっと見ていたそうです。

何本かタバコを吸って、いい加減飽きたなあと思い、帰ろうと回れ右をしたところ、「これで大丈夫」と声が聞こえたような気がしました。

辺りを見回しても誰もおらず、山を見上げても人影もいません。
とりあえず帰路につき、道々で空を見ると、雲が薄くなり少しばかり晴れ間が覗いていました。
その年の祭りは天気もよく、盛況だったそうです。

祭りの最中、一服したくなった彼は本殿の裏に回り、一服していると、「どうじゃ、凄いじゃろう?」と上から聞こえた気がしました。

見上げると、赤い顔に長い鼻、山伏の装束のそのままの天狗が、本殿の屋根に座っていたそうです。
彼が一瞬、瞬きをすると、既にいなくなっていたそうです。

「やっぱり、天狗っているんだよ」

そういって彼は話しながら興奮していました。