以前、解体屋のバイトやった時の話。

田舎の古い民家を解体してたら床下から妙な物が出てきたんだ。
直径2mくらいの丸い鉄製の鍋蓋みたいな物。

ちょうどそこは10畳くらいの仏間があった部屋の下なんだけど、なぜかそこだけやたら分厚い基礎で仕切られていて、鍋蓋には古いお札が無数に貼ってある。

「何だこれ気持ち悪いな。何でこんな物が床下にあるんだよ」と親方が1人で持ってみたがビクともしない。

そこへ施工主が「暑いでしょ。休憩して下さい」と言って缶コーヒーと梨を持ってきたので
親方が鍋蓋のことを聞くと、明らかに動揺した顔で「何ですかねこれ。まあ置いてても邪魔なんで取っ払って貰えますか」と言う。

親方も「仕方ない。おいお前ら、これ片付けたら休憩にするから、ちょっと手を貸してくれ」と、そう言って5~6人で一気に持ち上げると、ほんのわずかに鍋蓋の一方が浮いた。

その瞬間「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ」と大勢の人の叫び声が響き渡ったかと思うと、黒い芋虫みたいな物がいくつか、頭を上下に揺さぶりながら隙間から這い出て来た。

「うわあああ!」と全員が驚いて手を放したので鍋蓋は落ち、叫び声は止んだが、その一部始終を見ていた施工主が真っ青な顔で「す、すいませんでした!もうこれに触らないで下さい。やはりとんでもない物でした、ごめんなさい」と言って、鍋蓋はそのままにするよう頼んで工事は終わった。

その時の出来事が何だったのかいまだに誰も分からないのだが、親方だけは「ありゃ相当やばい物だよ。あんなのに当たるなんて運がねえな」としばらく愚痴っていた。

しかし俺はあの時、鍋蓋の下から這い出て来た芋虫の一つが、差し入れの梨に飛び付くのをはっきりと見たんだ。
それからしばらくして、東の方に奇声を発しながら飛び跳ねる梨のバケモノがいるという噂を耳にした。