スナックで働いてるんだが、変なお客さんが来た。
今の時期船のお客さんが多いんだが、その変なお客さんは船の人。
私は初めて見たけど、店のママや女の子は知ってる人らしい。

そのお客さんの所に誰も付かないから不思議に思いながらも私が付いた。
お客さんはボトルを入れてないらしいので二人でビールを飲んでた。
そのお客さんは『ちょっと滑舌悪いな、言ってることがあやふやだな・・・』くらいで他に不思議なことはなかったので、ママたちが敬遠してるのが不思議だった。

で、そのお客さんがトイレに行った時にママやお姉さんに「大丈夫?」って声をかけられたので聞き返すと、そのお客さんは自分の右肩を見ながらぶつぶつと独り言を言うらしい。
それからお客さんが戻ってきてから、ついついさっきより注意して行動を見るようにした。

そしたら、ママたちに聞いた通りお客さんは自分の右肩を見て何か喋ってる。
私が話しかけても無視。
今まではこのお客さん耳が遠いのかな、くらいにしか思ってなかったけど、その異常さに気付いてからはついつい興味が湧いてしまった。

観察してて気づいたのは、お客さんは独り言を言ってるんじゃない。
声には出してないけど会話をしてる。
それに気付いてゾッとした。

最初こそ口パクで会話してたのに、酔ってきたのか声が出て来た。
しかも私の肩らへんを指さして「そんなとこに居たのか」とか言ってる。
それからも声がドンドン大きくなって、隣に座ってた別のお客さんは怖がってた。

私も正直怖かったけど、これも仕事だと思って何度か声をかけた。
そのたびにそのお客さんはキャラが変わる、というか性格が違う。
ビールのお替りをいただく時に声をかけたんだけど、その時は笑顔で「いっぱい飲みな!」と言ってたのにいざビールを持って来ると「誰が持って来て良いって言った?」と睨まれる。

それからしばらく自分の右肩と喋るお客さん。
私が声をかけるとハッとしたように一言返してくれるんだけど、何かに呼ばれたかのように右肩に向き直る。

このお客さんは間違いなく私達の見えない何かと会話してる。
笑顔になったり、口元を手で隠して小声で喋ってみたり・・・。
ぼんやりと会話が聞こえてきたんだけど、変人の独り言だと思うことにしてた。
でも、お客さんのボソッと言った一言が私をビビらせた。

この子はダメだ。

私をみてただ一言だけ言ってまた右肩と会話を再開してた。
私はダメってどういうこと?接客がダメってこと?それとも別の何か?

そのお客さんはそれからしばらくして帰ったけど不気味だった。
変人なのか憑りつかれてるのか私には分からないけど怖かった。