ここが適切なのかわからないけれど10年近く前にあったことです。

当時、私は高校生でした。

突然、自宅の庭に腕が生えました。
東京郊外の農家などもちらほらある住宅街の中の一般的な一軒家の庭です。
生えた瞬間は誰も目撃していません。
何の前触れもなく庭の花壇の中にどことなく女性っぽい腕が一本、二の腕のあたりから生えていました。

第一発見者は朝、植物に水を撒いていた父でした。
私は父に呼ばれ、ふたりでまずバラバラ殺人を疑いました。
しかし、しばらく腕を眺めていると指がぴくぴく動いたり、手首がゆっくりと動いていることに気付きました。

これは生き埋めかもしれない・・・。
父は慌てて、引き抜こうと腕に近づきました。

しかし腕の射程圏内(?)に入った途端、腕がまるで食虫植物のように素早く父のズボンの裾を掴んで猛烈な力で引き寄せてきました。

危機感を感じた父は、即座に離れようとしました。
ところが腕は一端ズボンの裾を離して、父の足首を掴みなおし引っ張り始めました。

あまりの握力に父は悲鳴を上げて痛がり、私は慌ててスコップで手首をぶっ叩いてなんとか父を腕から引き剥がしました。

父の脹ら脛を見ると紫色に内出血しまるで万力で締めたあとのようでした。
父は柔道で鍛え筋骨隆々、そう易々と痛めつけられるような人間ではありません。

これはただごとではないと察した私と父は、母に腕への接近禁止を伝えて様子を見ることにしました。

しかしうちの母はそれで黙っているような人間ではありません。
面白がって昔使っていたゴルフクラブを持ち出し、腕に向かってフルスイングを打ち込みました。

ところがその腕はゴルフクラブを手で捕まえて振り回し始めました。
ゴルフクラブの取っ手の部分で思わぬ反撃を受けた母は一端退却。
腕も母が退却したのに満足したのか、ゴルフクラブをその辺にぽいっと投げ捨てました。

それを見た母は「癪に障る。やってやろうか!」と粗大ゴミに出す予定だった古い電子レンジを腕に投げつけました。
腕はさすがに受け止め損ねて下敷きになりましたが、よっこいしょと言わんばかりに上に乗った電子レンジをずらしてしまいました。

その光景をずっと庭の塀から面白がって見ていたお隣のお爺さんから助言。
「気味が悪いししばらく放っておこう。しばらく生えたままなら離れたところから掘り返してみましょう」

その言葉にうちの家族も冷静になり、腕をしばらく注視することにしました。

その腕は面白いことになにかで殴りつけられたりしたらそれを奪い取って反撃してくる。
石やヌンチャクなどを投げつけられたらそれなりの強さで投げ返してくる。
近づいたら掴み掛かって来て、その握力は骨折しかねないということがわかりました。

とにかく近づかなければ害はない。
ただ近づいたら攻撃してくるので庭に洗濯物を干すことも出来ない。
しかも時折、こちらを手招き(?)するようなポーズを取ってくる。

少なくとも植物の類ではない、バラバラ殺人ではない、生き埋めでもないということは明らかです。
悪意があるのかはわかりませんが、まともなものではありません。
段々、うちの家族のストレスが溜まってきました。

腕が生えて3日ほど経った頃、事件が起こりました。
件のお隣さんの飼っている猫が腕に近づいて攻撃されました。

普段、うちの庭で遊ばせているのですが、腕が生えた後は危険なので外に出させませんでした。
しかし猫の方もストレスが溜まったらしく勝手に抜け出して庭に来てしまったようです。

動物病院に行って一命は取り留めたものの、可哀想に尻尾を握り潰されてかなりの重傷を負ってしまいました。(なんでも一部が壊死してしまったようです)

怒りに燃えるお隣さんと、ストレスの溜まった我が家の面子で腕に対する最終的な解決策を話し合い、徹底的な無力化のち掘り返して引き抜くことに決まりました。

その週末。
腕に対する総攻撃が始まりました。

お隣さんは家にある鍋を片っ端から火にかけて熱湯を用意し何度も何度も腕にぶっかけました。

父は趣味のサバイバルゲームで使っている強力な電動ガンで機銃掃射をかけます。
私も数発、アーチェリーの矢を打ち込みました。(血は全く出ませんでした。)
最後に母が大型二輪で轢きました。

攻撃を受けた腕は最終的にボロボロになり地面に力なく横たわって、近づいてもヒクヒクと時折動くのみになりました。

そして最後の仕上げにシャベルで腕の周りを掘り返しました。
しかしその下に肝心の胴体も見あたらず、二の腕の下は細長い一本の根っこ状になっていました。

これをそのまま捨てたら、今度は我々がバラバラ殺人の犯人と疑われてしまう・・・。
お隣さんと相談した結果、一端、鍵をかけた焼却炉に放り込んでおいて翌日の日曜日に燃やしてしまおうという結論に行き着きました。

そして翌日、燃やそうと焼却炉に向かったら、なんとその蓋は引き裂かれており腕はどこかに消えてしまっていました。

それ以降、我が家の庭にもお隣さんの庭にも腕は新しく生えてきません。

結局の所、その腕の正体は何で、どこに行ってしまったのかはわかりませんでした。