俺、親父が日本人形の製造工場を経営してるせいか、人形に対して恐怖心はないのね。
家ん中にも面相に失敗した市松人形の首とかが転がってたくらいだ。
だけど1回だけ怖い人形を見たことがある。

お客様が補修の依頼で持ち込んだ市松人形で江戸時代に作られたものだった。
何が怖いって、目が怖いんだよ。

今と違ってガラスで作られた目玉なんだろうけど(今はだいたい樹脂製)、瞳孔が開ききってるっていえばいいのか、とにかく怖い。

歳を取った犬や猫が白内障かなんかに罹って目が見えなくなるだろ?あんな感じ。
古い人形はよく見たことはあるけど、それまで見た人形とはまったく違う不気味な雰囲気を醸し出してた。

怖いと感じたのは俺だけでなく、親父やおかんもだったらしい。
家に置くのは一晩だけとは言え、あんまりにも怖かったからその夜は玄関に外向きに置いて保管した。

・・・まあなにも起きなかったんだけどね。

もしかしたら俺んちの玄関の正面にお地蔵様があるから、何も起きずに済んだんだろうか。