学生時代、ホテルで清掃員のバイトをしていた。

午前中に各階に数人ずつ分かれて、使用した部屋を掃除して行く仕事。
拭き掃除などは基本パートのおばちゃん達で、俺はベッドメイクや各階の備品管理が主だった。

その日は、ホテルは暇で仕事はほとんどなし。
出勤人数も少なく、勤務終わりまで余裕のある日だった。

人数が少ない分、各階のマスターキーが全員に割り当てられ、俺はたまたま最上階の鍵を渡された。
一番高い部屋は最上階にあって、普通の部屋の三倍ほどの広さ。
俺は、そこで小休止しようと考えた。

最上階に客はおらず、通路も薄暗くシーンとしている。
目当ての部屋は、ドアも普通の部屋より重くしっかりしていて、何もかも一回り豪華だった。

中に入り、ベッドに横になって一息ついた所で、俺は部屋の空気が違うことに気付いた。
空気が重い感じ。

浅い金縛りというか、動こうとするのに一呼吸いるような空気。
俺には霊感などなかったが、何かヤバイ気がして部屋を出ようとすると、どこかでドアの開く音がした。

この一番高い部屋は、普通の部屋の三倍ほどあり、部屋の中は壁で二部屋に仕切られている。

その仕切りのドアが開く音だった。
一気に恐怖が込み上げ、俺は仕切りのドアを見ないように全速力で部屋の外に転がり出た。

ドアを閉めようと振り向いた一瞬、部屋の中に見えたのはデカい木の樽。
あれは一体何だったのか今でも謎。