死んだ爺さんが友人から聞いた話。

大正時代のある年の夏、爺さんの友人が生まれたばかりの息子を連れて神社にお参りに行ったそうな。
荷物を神社の近くに置いてきたことに夜になって気付いた彼は、ひとりで取りに行ったらしい。

荷物を回収して、妻や息子の待つ旅館に戻ろうとした時、神社から旅館までの帰途にある
古い階段に人影があった。

その夜は曇りだったが、ちょうど階段でその人物とすれ違うとき、月が雲から顔を出して、あたりが明るくなった。

その人物は、赤い帽子をかぶった少女だった。
着物を着ていたが、軍靴を履いていて、どこか不自然な服装だった。
ぎょっとして、彼は走り去ろうとした。

しかし、少女はもの凄い勢いでついてきて、帽子を投げつけてきた。
彼は目に帽子が当たって、痛みで立ち止まった。

そのとき、少女は嬉しそうに「二十二、二十二、二十二、二十二じゃ。」と叫び、笑った。

あまりの不気味さに気を失いそうになった彼だったが次の瞬間、少女は消えていた。
あたりを見渡しても誰もおらず、帽子も跡形もなく、ただ月だけがあった。

なんとか旅館に帰った彼は、『さっきのは疲れて幻を見たんだろう』と思って、床についた。

目を瞑るとさっきの少女の「二十二」の声が聞こえて来て、全く眠れなかった。

彼は、無事に故郷に家族を連れて帰り、何事もなく日々を過ごした。
息子は大きくなり、二人目の子こそ生まれなかったが夫婦仲は円満、仕事も順調で、彼は幸せであった。

ただ、あの不気味な夜にあった少女の「二十二」とは何かを意味しているような気が無性にするのだった。

彼の最愛の一人息子は終戦の年の夏、戦死した。
戦死広報に書いてあった「享年二十二」という文字を見た瞬間、彼はあの二十二年前の不思議な夜の少女の声を思い出し、震え上がったのである。