小さい頃、うちの婆さんの家のタンスに入ると変な町に行けた。

ハンガーで吊ってある服の奥にどんどん進んでくと、(奥に進めたことがまずおかしいわけだが)デパートの洋服売り場みたいな場所に出た。

また商品の服の中に入ると婆さんのタンスに帰れた。
そこは普通っぽいデパートなんだけど、商品に値札がひとつもついてない。
勝手に持っていってもいいことになってて、俺はいつも食品売り場で菓子を食ってた。
やたら綺麗な色の、見たこともない菓子ばかりで、どれもすごく美味い。

お土産として持ち帰ろうとしても、いつもいつのまにかポケットから消えてしまう。

そのデパートの外観は109っぽい感じだったと思う。(初めて109を見たときに「あのデパートに似てる」って感じた)

隣には映画館があって、ここでも無料で映画を見られる。

いつもアニメ映画をやってた。
昔話調の話が多かった。

聞いたこともない面白い昔話ばっかりだったのに、内容はひとつも覚えてない。

その町にはいろんな店があったんだけど、店員らしい人がひとりもいなかった。

いるのは通行人か買い物客だけ。
みんな、なんとなくフワフワした雰囲気。
大人のひとほど上の空な感じだった。
その町で仲良くなった子供もいた。

その町の地名は「なんとか県◎◎」

県名は忘れた。
日本語っぽい音だったが、現実に存在する47都道府県のどれとも違う。
◎◎は確か「マ」から始まる4文字の言葉。
マしか覚えてない。

婆さんの家が改築されてから、もうあそこには行けなくなった。

同じところに行ったことあるやつ、いないか?
あそこで仲良くなった子たち、みんな違う県から来たって言ってたんだ。

入り口もタンスだけじゃなくて、いろいろあったらしい。