昔話みたいな話。

何十年も前のこと。
俺の家には月にいっぺん浮浪者が訪れた。

ばぁちゃんが出迎えて、味噌を塗った大きなおむすびと五百円を渡すと「これで風呂にも入れます」と、すきっ歯を見せながら垢だらけの笑顔を見せてきた。
当時小学生だった俺も顔見知りになり、さかんに「どこに住んでるの?」「好きな食べ物はなに?」「どうして毎月来るの?」などと質問をしていた。

特に好きな食べ物に関しては毎回聞いていた。
なぜかと言うと、決まって「お前のばあちゃんのおむすびだ」と答えてくれて、俺もそれが大好きだったから誇らしかったのだ。

変わって隣の家はケチで、その浮浪者が訪れても何も渡さず塩をまくほどだった。

さて、いつのまにか隣人は夫が仕事をクビになり、さらにはどんな理由か借金も抱えるわ家は火事になるわの大惨事。

比べて我が家は持っていた畑を借家にしてちょっとした財産を残せるほどに。
最後に浮浪者に会ったのは中学生の頃だっけか。

「俺はもういなくなるが、世話になった礼は返し続ける。お前もばあちゃんのような優しい人になれ。優しいってのは偽善でもいい。誰かに感謝されるのは徳を積むことになるんだ」と言って、それ以来姿を消した。

俺は普通のサラリーマンだが、いまだに借家やマンションの経営で不労所得も多い生活を送っている。
ほぼ無意識に募金箱に金を突っ込む余裕もある。

隣人はいつのまにか引っ越していて、気づけば床屋になっていた。