父から聞いた本当の話。

祖父が50を過ぎたくらいの頃、ちょっとした物忘れか何かをした時に父が「おいおい、もうボケちまったのか」と冗談めかして言ったらしい。
すると普段温厚な祖父が突然激怒して父を説教、「二度と俺をボケたとかいううな」と固く約束させられ。

最後に「ただし、あと何十年かして俺が本当にボケた時にはからかうような言い方はせず、静かにそれを伝えてくれ」と言った。

それから20年以上時が流れ、祖父が本当にボケ始めた頃、父は悩んだが決心をして「親父、言いたくないが親父はもう痴呆が始まってしまっている。この前も~で~なことがあった」と真剣に伝えると、祖父は「そうか・・・」とだけ言って父を追い返してしまった。(この時は既に仕事の都合で隣県に別居)

それから2週間ほどして祖父は死体で見つかった。
自殺だった。

葬式のときに地元の農協職員から聞いた話では、父が痴呆の事実を伝えた日から保険の詳細や土地の権利関係のことで農協に足繁く通って身辺整理をしており、近所の爺さん婆さん達から聞いた話では、普段から祖父は痴呆になって家族に迷惑かけるくらいなら潔く死んだほうがマシだと言っていたらしい。

詳細は聞いていないけど、祖父はそれなりにまとまった財産を遺してくれていたらしいけど、間接的に死に追いやってしまった父の心境を考えると・・・。

それに、痴呆といってもまだほんの初期症状だったから父も「これをキッカケに痴呆が良くなれば」くらいの気持ちだったんだと思う。

しかし、本当に後味が悪いのは俺自身、父から「俺が本当にボケたらその時は・・・」と頼まれていること。