渓流に沿って歩いていると、行く手の川縁に誰かが蹲っているのが見えた。
ボロ布を纏っているような奇妙な格好をしていたらしい。
足元から何かを掬っては頭を上下させている。
何かを咀嚼している様子だ。

大きな岩を迂回してからもう一度目をやると、人影は消えていた。
老人だったと思う。

足元に気を付けながらその場所に下り立ったところ、砂の上に何か穿ったような跡が残されていた。

自分:「こんな山奥まで来て、川の砂なんかを飲み込んでいたのかな?」

辺りを見回したが、何の気配も感じられなかった。
変わった人もいるものだと思いながら、そのまま川を下り続けた。

下山し無事に家に辿り着いたその日の夜、おかしな夢を見た。

夢の中で彼は川沿いの砂地に立っていた。
あの影を目撃した場所だ。

彼の前に、例のボロ布に包まれた背中があった。
クチャクチャと湿った音が聞こえてくる。
やがてそいつはくるりと首を回し、彼を真正面から睨め付けてきた。

目の大きさが左右で異なる、異様な風貌をしている老人の顔がそこにあった。

右目は細く閉じられていて白目の部分しか見えず、目脂が酷い。
左目は大きく見開かれ、瞼が無いのかほとんど真円に近かった。
口元に濡れた川砂がこびり付いている。

自分:「好きでこんなモン喰うているとでも思うたか」

そこで目が覚めた。
全身に嫌な汗をかいていたそうだ。

俺:「馬鹿にしたつもりなどないんだけどな・・・」

ボヤきはしたものの、何となく悪い気もしたので、取りあえず布団の上に正座し「すいませんでした」と適当な方面に頭を下げてみた。

何に対して謝ったのかは、自分でもよくわからなかったが。
まぁ間が悪かったよな、そう考えて自分を慰めという。

謝罪が功を奏したか、以来夢の中に老人は現れていない。
ちなみに彼は、それ以来あの渓流には近よっていないのだそうだ。