友人の話。

彼は幼い頃、山の中腹にある神社を縄張りとしていた。
近所の子とよくそこに行っては、様々な遊びをしたという。

ある時、長い石段を使って陣取りをしていると、上の方からザッザッと下りてくる音がした。

複数名いるようだ。

「誰も上にはいなかったけどな」と怪訝に思い、振り返ってみた。

仰々しい山伏の格好をした者が5名、しっかとした足取りで進んでくる。
挨拶しようとした次の瞬間、硬直してしまった。

5人が5人とも、その首から上が犬のそれであったからだ。
白い毛並の者、斑のある者、赤毛で片耳がない者など、各人風体はバラバラだった。

立ち竦む彼らを気にも留めず、5名の犬面山伏は悠然と下っていき見えなくなった。
どうやら他の友人らも動けずにいたらしい。

山伏が見えなくなると「今の見た?」「一体何だアレ?」と口々にそう叫んだという。

その夜、彼の祖父が語って聞かせたところによると・・・。

「犬の顔をした山伏?そりゃ天狗だよ。ただ、天狗は天狗でも犬天狗っていう輩だって話だ。天狗としての位は低いとか、本職の山伏に聞いたことあるな。犬から徳を積んで行くと、よく知られた長鼻の大天狗に精進するんだとさ」

ということだ。

「天狗の仕事っていうのも、色々と大変らしいぜ」

仕事の愚痴をこぼしていた私に、彼はこの話をしてくれた。
彼なりに励ましてくれていたのだろうかと、今ではそう思う。