これは高校生の時。

父方の祖父が、もう余命幾ばくもないと医者から言われました。
入院先で顔を会わせた祖父の辛そうな顔が忘れられず、一度見舞いに行ったきり、私は頑なに面会に行きませんでした。

祖父は私から見ても、孫のなかで私を一番可愛がってくれていたため、余計、衰弱していく姿を見るのが怖かったんだと思います。

ある夜、祖父の面倒を見ている叔父から電話があり、「今日明日が峠だ」と知らされました。

祖父の入院している病院は電車で2時間はかかるため、とかく父だけは死に目に間に合いたいと、急いで支度して出ていきました。

家に残った母と私たち子供は、祖父のことを思いながら、その日だけは母の元にみんな集まって、寄り添って就寝しました。

その時私が思っていたのは、なんで祖父に会いに行かなかったのか・・・という後悔でした。
動物も飼ったことがなかったので、生き物の死を目の当たりにするのが怖く、大切なものを見落としてしまっていたことに後悔しました。

そうこう考えていたら、なかなか寝付けず、家族が寝息を立てるなかで、ひとりもぞもぞ寝返りを打っていると、「ぎゃあああああああ!!!」と、突然、誰もいないリビングから男の大きな叫び声が聞こえました。

私はビックリして、「えっ何?!誰!?」と叫びました。

真夜中に、誰もいないところから男の声が聞こえれば、どんなに深く寝てたって起きるだろうと思うのですが、母も姉も、全然寝てるのです。

もう怖くて怖くて母を揺り起こしました。

母は普段眠りが浅く、人が歩く音にすら目を覚ますような人なのに、このときは数分揺り動かしても反応がなくて、ただただ私だけが恐怖の最中でした。

二人を起こして「男の叫び声がした」と話すと、3人でリビングを見に行けど、誰もいない。
窓も開いてない、変わったところもない。
寝ぼけたんじゃないか?と言われたが、そんなことはなかったと言いつつ、本当に何だったのかわからない。

そうこう問答をしている時、父から電話があり、祖父がつい先ほど亡くなったことを知りました。

母が私が体験した出来事について話すと、父は電話越しに泣きながら、その時のことを教えてくれたそうです。

祖父は亡くなる寸前に目をカッと見開いて、大きな叫び声で誰かに向けて言っていたようだと。

あの声は、祖父のものだったのだと私も思います。
叫んだ内容は誰も分かりませんが、あれは薄情な私に対しての祖父の怒りだったのではないかと、心底後悔をしました。

後日、お葬式がしめやかに行われました。
祖父の小さな亡骸と対面して、私はたくさん謝罪しました。

『怖がって会いに行けずにごめんなさい。もっと生前に孝行すればよかった』と。

子供みたいに泣きじゃくる私に気を遣って、みんなあまり話しかけてきませんでした。

会場の端っこでひとりぼうっと佇んでいたところに、親戚と小さな女の子がトコトコっとやってきて、私にこう言いました。

女の子「おじいちゃんがね、こっちおいでって行って、呼んだからね、◯◯が聞いてきたよ。怒ってないよ、幸せにおなりって」

その子の親(親戚)が言うには、目を離した隙にどこかに行ってしまって探してたら、ホールの窓辺でお喋りしてるのを発見。
で、てっきり葬儀場の人と話してると思ったら誰もいなくて、話してた内容を聞いたら「おじいちゃんに会った!」って言い張る・・・。
どうかとは思ったけど、私のところに連れてきてくれたそうです。

子供のほうがやはり霊に近いんですかね。