「だから教会で結婚式なんかやりたくなかったんだ・・・」

彼女(今は妻)の希望で、式は教会式になったもののキリスト教徒以外は神父の言葉(なんかよくわからん聖書の説明みたいなもの)を聞かなくてはならなくて、俺は心底不機嫌になっていた。

信仰心などまったくない俺は、相づちをうつフリをして、適当に聞き流していた。
あまりの退屈な話にイライラして、返りに敷地内にあった十字架を蹴飛ばすと、一辺が砕けて倒れてしまった。

彼女は真っ青になってオロオロしていたが、俺は気にせず唾を吐き捨て、修理代替わりと言わんばかりに、ポケットから小銭を取り出し十字架にたたきつけた。

今思えばこれが悪かったのか・・・。

式当日、俺は朝からダルく、体調がすぐれなかった。
しかもなぜかあの教会に近づきたくない。
理由はないが、イヤな予感がした。

式の途中、俺は頭がフラフラして倒れそうになった。
体調がわるいからか?

そう思った直後・・・。

周りの音が全て聞こえなくなって、景色も全ての色が白と黒になっていたのだ。

列席者も椅子も壁も同じ、全てが停止し、色褪せ、自分だけが動いている、そんな感じだった。
わけがわからなくなり、これはどうしたことだろうと思っていると、正面の大きな宗教画(フランダースの犬のラストシーンのような絵)に描かれた白い天使が、どす黒く染まっていくではないか!

さらに・・・真っ黒な天使達は絵画の中から抜け出して(!)俺に向かって飛んできた。

もう完全なパニック状態。

声も出せず汗をダラダラ流して呆然と立ち尽くす俺の首に、天使の手がまきついた。
この時点で天使の意図を悟った。

俺は今ここで・・・死ぬ・・・。

ゆっくりと首に力がかかる。
もう息もできないほどだ。

金縛りにはなってなかったと思うが、恐怖で指一本動かない。

意識が遠のき、もうだめだ・・・そう思ったその時。

キィィィン・・・!

何かが落ちる音。
その瞬間、天使達は姿を消し、辺りの景色にも色が戻り、音も聞こえるようになった。

床に目を落とすと、これから彼女の指にはまるはずの指輪が落ちていた。