姉の話です。

姉には1歳になる子どもがいて、その子を連れて出かけようとしました。
夏でマンションの5階に住んでいたこともあって、窓は開けたま、火の元や電気だけをチェックして玄関を閉じました。
鍵を閉めた後も、そのままドア前で鍵を仕舞ったり鞄を持ち直したり、しばらくそこに立っていました。

そのうち、抱っこしていた子どもの動かした手が、たまたまインターホンのボタンに当たったそうです。
ピンポーン、とチャイムが鳴るのをどうと思うことなく姉は聞き流したそうですが、インターホンから「ガチャッ」と、受話器を取る音がして、一気に血の気が引き、ドア前で固まったそうです。
義兄は仕事に出ていて、家には誰もいないはずです。

姉は息も止めて子どもを抱き締めながらインターホンを見つめていましたが、インターホンの向こう側からは最初の受話器が外れる音以外は何の音もしません。

姉の家のインターホンは古いタイプなので、電話型の受話器が付いています。
縦に壁へ取り付いているため、受話器を引っ掛けている状態でとても外れやすいそうです。

1分も経つと姉も少し落ち着き、タイミング良く風か何かで受話器が外れただけかも・・・と思い直したそうです。

それまで急にぎゅっと抱き締められていた子どもは、姉の緊張が移ったのか静かでしたが、腕の力が緩んだのでご機嫌になり、「キャッ」と笑い声を上げたそうです。

するとインターホンからすぐに「きゃあー!きゃあー!」と声がしました。

後で姉に聞いたのですが、その声は無感情で老若男女の区別がつけ難い声だったようです。
男にしては高め、女にしては低め、とした言えないような声らしいです。

その声は、ただただ、子どもの上げた声の意味が分からないとでも言うように、間延びした語尾上がりの声で、「きゃあー!きゃあー!」と一音一音はっきり発音し、それをゆっくり繰り返すのだそうです。

姉は子どもをきつく抱いて階段を飛び降り、脇目もふらずに隣町の実家に車を飛ばしました。
実家に着いて泣きながら震える姉に上記のことを聞き、すぐに姉の家の近くの派出所警官とマンションの管理人に連絡して、弟が姉の家に向かいました。

警官が先頭になって入りましたが、家には誰もおらず、また、誰かが侵入したり、部屋を荒らした痕跡も見られませんでした。
インターホンの受話器は、家に上がった時点できちんと壁に掛けられており、指紋を採取してもらいましたが、姉と義兄以外の指紋は取れなかったようです。
インターホンの故障や、電話のように混線?したのかもと業者に調べてもらいましたが、インターホンに不具合はありませんでした。

オチがつかなくて申し訳ないですが、以上です。

ちなみに姉はしばらく実家で過ごした後、引っ越しました。
いまだにインターホンが怖いそうです。