今年祖母88才になる祖母に、以前「なにか怖い体験をした記憶があれば教えてほしい」とねだった際に教えてもらった話。

祖母が若い頃、ある夏の日に用足しをしに山を下りた帰り道での体験。
その頃、祖母が住んでいた辺りは東北の山奥で、近くの町まで下りるにも峠や谷をいくつも下りなくてはいけないほどの僻地だった。

その日も用を終えて帰る頃には夕暮れ時に差し掛かってしまった。
帰路を急ぐ祖母の行く先の橋のたもとに、着物姿の女のひとが佇んでいたという。

頭から手ぬぐいを被っていて表情は分からないが、何をするでもなく川を向いて立っている。

誰だろう?と思いながらもさして気にせずその女の人の傍を通り過ぎる際、見るともなくその人の顔を見て祖母は仰天した。

手ぬぐいの下にある顔は、狐だったという。

正真正銘、本物の狐の顔をした何かが着物を着て立っている。

狐は祖母を見るわけでもないし、特に悪さをされたわけではないけれど、祖母はほうほうの態で橋を渡って帰宅したという。

怖いというよりどことなく民話調なエピソードで、夏の夕暮れになるとなんとなくい思い出すお話です。